優生思想と経済のイヤな関係。日本は負の歴史を繰り返してしまうのか_img0
 

人気バンドのボーカルを務めるミュージシャンが「優生思想」に基づく、差別主義的な発言をしたことが波紋を呼んでいます。優生思想に根拠がないことは科学的にほぼ証明されており、関連発言が許容されないのは当然のことですが、一部の人は、依然としてこうした価値観を持っており、最近では自民党が優生思想を連想させる表現で憲法改正を主張するツイートを行うなど、むしろ時代に逆行している面もあります。

 

人気バンドのメンバーであるN氏は今年7月、自身のツイッターで、大谷翔平選手や藤井聡太棋士を引き合いに、優れた遺伝子を持つ人の配偶者は、国家プロジェクトとして政府が選定すべきだという、にわかには信じられない発言を行いました。

当然ですが、この発言には批判が殺到しており、タレントの乙武洋匡氏は「『これぞ優生思想』という考え方をここまで無邪気に開陳できてしまうのは無知ゆえ」と厳しく指摘しています。

優生思想とは、社会全体として遺伝的に優れた人間を増やし、劣った人を排除すべきだという考え方です。人の能力の一部が遺伝として子どもに伝わる可能性があるのは事実ですが、遺伝子の働きというのは優性・劣性という単純な組み合わせで決まるものではないことは科学的な研究でほぼ証明されています。したがって、現時点で高いスキルや能力を持つ人同士で婚姻させれば有能な人間を増やせるというのは、まったく意味のない考え方といってよいでしょう。

しかしながら、優生思想が厳しく批判されているのは、それだけが理由ではありません。

優生思想は、生物が環境に適応して進化するというダーウィンの進化論を曲解して生まれたものですが、ナチスドイツがこの考え方をベースに強制的な断種(手術で子どもを作れないようにすること)など、非人道的な行為を一部の国民に強要。最終的には不適格とみなした人を殺害するという恐ろしい行為に至りました。

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1944年、ポーランドのアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所でのナチスドイツによる捕虜の選別。捕虜には子供や老人、障害者なども含まれていた。大半は選別後すぐに何の記録もされないままガス室に送られたとの説もあり、そのため当収容所における正確な犠牲者の数は現在でも把握できていない。また収容された人の9割は、ナチスが「劣等民族」としたユダヤ人だったとされている。写真:Everett Collection / Shutterstock

科学的に根拠がないばかりか、障害者や社会的弱者の排斥、虐殺になどにつながることから、優生思想は現代社会では厳しく戒められている価値観といってよいでしょう。日本でも優生思想の危険性については、それなりに教育が行われてきたはずであり、そうであればこそ、乙武氏も「無知」であると批判しているわけです。

しかしながら、今の時代になっても、N氏のように優生思想あるいはそれに類する価値観を当たり前のように口にする人が一定数存在しています。N氏は批判を受けてツイッターで「冗談で言っています」とつぶやくなど、状況を理解できていないと思われる発言をしていますし、何より政権与党が、やはりダーウィンの学説を曲解して引用するなど、時代に逆行している印象すら見受けられます。

 
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