使ったのは12.9インチのiPad Proとアップルペンシル

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iPad Pro 12.9インチ 64GB 第3世代とアップルペンシル


では、次に初めて挑んだというiPadでの制作について伺っていきます。

「ペンに慣れるためにラフや下書きもi Padで描きました。また、ペンの重さもほとんどなくて動かしやすく、ペン入れのタッチの軽さも素晴らしいんです。近年、腕の筋力が衰えて普通のペンだとずっと描いていくと疲れてしまうのです。スラスラと描けて、いくら描いても腕が疲れないのが何より良かったです」
 

 

いつでもどこでも気軽にスケッチできるiPad。イタリア滞在中にも描画

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「ローマの公園やカフェ、博物館、サンタンジェロ橋でiPadを取り出して描くこともありました。外で描くのはラフ書き程度ですが、描きたいと思ったときに、いつでも描けるのは便利でした」
 

これまでの漫画の描きかたと比べて、iPadは微調整しやすいのがメリット


「たとえば、二人の人物を並べて書くとき、アナログだったら、並んだ人物の大きさを揃えるのに結構苦労して、サイズ感を合わせるために何度も書き直すのですが、デジタルは微調整すれば、無理なく人物を並べられます。別のレイヤーに描けば、レイヤーごとに自在に調整できるのは、素晴らしいですね。
そして、失敗してもすぐに直せる。 何より消しゴムをかけなくても良いのでラク。レイヤーを閉じるだけで済むんです。 アナログの時には消しゴムのかけすぎで毛羽立ってしまい、色が濁ってしまう失敗がありましたが、デジタルだとそういうことがなく、きれいな下絵の上に色が塗れます。レイヤーも多いので、色を変えたり重ねたり、いろいろな方法での挑戦ができました。色のタッチの種類も多いので、チョーク風の色とか、水玉風のタッチの色とか、いろんなバリエーションで画面がデザインできます。とても楽しかったですね」


デジダルはアナログの数倍も作業が早く進む!


「漫画はアプリAdobe Frescoを使用して描きました。主線はベクターブラシのテーパー、カラーはライブブラシの水彩の出番が多かったです。特に水彩は滲み、ボカシがきれいに広がり、いい画面を作ってくれました。アナログなら1日かかるだろうボカシなどが、数時間で整えられたのにも助かりました」


アップルペンシル1本で、下書きからペン入れ、彩色まで

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「制作順序は、構図、下書き、ペン入れ、彩色 と、基本的な順序はアナログでもデジタルでも変わりません。でも、鉛筆から下書きペン、彩色筆と道具を変える必要がなくアップルペンシル一本で全てができるのは便利で、面白かったです。たくさんの線の種類があるので、作品に似合った線をあれかこれかと試行錯誤するのも楽しかったですね。選ぶ線一本で、人物の印象が柔らかくなったり、固くなったりするので色々と試し、頭の中のキャラクターイメージに近いものを選択。色もそうですね。どのペンを使って塗るかで重い服になったり軽やかになったり……。水彩がとても美しいので、淡い霧の感じや、透けた空の透明感なども出せるんです。レイヤーを重ねると、透け感もまた違ってくるし、デジタルって何でもできるなと感動でした!」
 

初めてのiPadによる漫画制作で困ったことは?


「何故か突然保存していた絵が消えてたりしました。さっきまであったのに〜と再度書き直すことがありました。操作のミスかはわかりませんが……。また、レイヤーにロックを掛けておくことも忘れずにしなければと気づいたことです。わずかな動きで2つのレイヤーが重なってしまい、はっと気がついたら鉛筆の下書き線と色ペンの線が重なって1枚のレイヤーになってしまっており、嘆いたことが3度ほどあります。ですが、こういうのも、慣れれば気をつけられるようになることですね。絶えず保存するといいのです」


コロナ禍では、アシスタントとのやりとりもiPadとBOXがあればスムーズに


「イタリアから帰国後は、仕事場でアシスタントと集まって作業する予定でしたが、コロナで自粛となってしまいました。こんな状況にもデジタル制作だからこその恩恵をたくさん受けました。キャラクターの主線を入れたものに色の指定を加え、 “BOX”というクラウドサーバーにアップします。そして、アシスタントに遠隔で彩色してもらいました。 アシスタントが、出来上がったものを再度“BOX”に入れてもらえば、簡単にこちらでチェックが可能です。塗り残しやはみ出しがあれば、また指定して“BOX”に入れて、アシスタントに修正してもらう。この繰り返しでした。
描いてるうちどんどんデジタルに慣れていき、『ここはこうしましょうか』『服に布地の質感の模様が入れられる、ペンがありますよ』など、アシスタントの方からも積極的なアイデアが出てくるのも良かったですね。
デジタルのおかげで、それぞれが家にいたままで、仕事が効率よくできる。そんな新たな発見を得た制作でした」


勢いが止まらない萩尾望都さんの新しい世界、ぜひチェックしてみてくださいね!

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取材・構成・文/高橋香奈子
 
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