イヤホンで音楽を聴いていたら耳が痛くなったり、高いところに登って耳が塞がれたような感覚があったりと、私たちの日常生活でもよく起こる「耳」の異変。いつのまにか治っていた、ということも多いですよね。でも、ある日突然“難聴”や“耳鳴り”が起きて、しかもその状態がしばらく続いてしまうことがあります。それが「突発性難聴」です。

今回は、急に起きてしまう突発性難聴とは一体どんな病気なのか、Twitterでも積極的に医療関連の情報を発信する耳鼻咽喉科専門医の前田陽平先生に教えていただきます。

 

1.突発性難聴ってなに?


一言で表すと、ある日突然発症する「感音(かんおん)難聴」で、原因が不明なものです。

普段あまり聞かない言葉なので、「なんじゃそりゃ?」という感じですよね。難聴の分け方には「感音難聴」と「伝音難聴」のふたつがあって、それぞれ仕組みが異なるんです。

突発性難聴は感音難聴に分けられます。感音難聴は「内耳」が原因で起こる難聴です。人間は音を聞き取る際に、耳の中の「鼓膜」と3つの小さな骨からなる「耳小骨(じしょうこつ)」を揺らして、その振動を内耳に伝えることで音を感知していますが、これら内耳の器官に異常が起きて音が聞き取りづらくなるのが感音難聴なんです。内耳の異常は検査をしても原因がわかりづらいのも特徴ですね。

 

一方の「伝音難聴」は、内耳の手前にある「外耳」や「中耳」の異常で起こる難聴のことです。中耳の中に水が溜まってしまう「滲出性中耳炎」や、鼓膜穿孔による「穿孔性中耳炎」も伝音難聴を起こします。外耳・中耳の異常は聴力検査や耳内の診察、CTなどを行うことで比較的診断がつけやすいのも特徴です。

冒頭の話に戻りますが、突発性難聴とはこのように、「ある日突然」発症する、「感音難聴」で、検査をしても「原因が不明」という、複数の条件で診断が下される難聴のことです。

2.難聴が起こるメカニズムって?


耳鼻咽喉科の専門医試験で「突発性難聴とは何か説明せよ」と問われたら、上でも述べたように「突然発症する感音難聴で原因が不明なもの」が正しい答えなんです。ですので、この質問に対する正しい回答も「メカニズムはわかっていない」になりますね。原因がわかった時点で、それは突発性難聴ではないんですよ。

とはいえ、現在もいろいろな研究が行われていて、何らかのウイルスが関与しているのではないか? とか、あるいは内耳につながる血管に血栓ができることで起こるのではないか? とも言われています。明らかな原因は判明していないものの、突発性難聴の治療には「ステロイド」が一定の効果があることがわかっています。

一定の効果のある治療がわかっているので、原因不明でも診断する意味がある、という側面もありますね。

3.どんな症状が起こるの?


突発性難聴は“感音難聴”ですから、症状の特徴は圧倒的に「音が聞こえにくいこと」ですね。耳が詰まっているような感じになることも多くて、人によっては耳鳴りがすることもあります。高度の突発性難聴の場合は、めまいを伴うことも珍しくありません。

4.セルフチェックの方法はある?


「片耳が急に聞こえにくくなる」といった症状があれば、耳鼻科が開いている範囲で早めに受診してください。急に起こった難聴のことを総じて突発難聴と言いますが、その中でも代表的なのが「突発性難聴」なんです。「症状はいつからか?」ということもセルフチェックのポイントです。

難聴の原因となる病気はもちろんいろいろありますが、突発性難聴、つまり原因不明と診断されるケースが多いと思います。理由は、突発性難聴はなるべく早めの治療がいいとされているからなんですね。原因を探るより、まず先に治療してしまったほうがいい、ということです。

なので耳鼻科では急に起こった難聴は「突発性難聴」をまず疑い、迅速に対処します。他の病気については、症状の様子を経過観察しながら考えていくのが定石ですね。

前田陽平 Yohei Maeda

大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科。耳鼻咽喉科専門医・指導医・医学博士。アレルギー学会認定専門医・指導医。Twitterでも耳鼻科や医療関連の情報を発信している。
【Twitter】ひまみみ 耳鼻科 前田陽平(@ent_univ_)


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全4回】
第二回「突発性難聴は「72時間」を過ぎたらダメ?! 耳鼻科の先生に聞いてみた」
第三回「突発性難聴ってどうやって治すの?診察と治療法を医師が解説」
第四回「突発性難聴はクセになる?繰り返さない&発症させないための生活習慣とは」