急に難聴が起きると、「何かひどい病気なのかな?」「よく聞く“メニエール病”では?」と不安になりますよね。耳鼻咽喉科専門医の前田陽平先生は、自己判断をしないこと、早めに耳鼻科を受診することが突発性難聴の症状改善への近道だと教えてくれます。とはいえ、どのくらい「早め」を目安にしたらいいのでしょうか? 適切な受診タイミングについて、前田先生に詳しくお聞きします。

1.診察を受けるのは「72時間以内に」ってホント?


突発性難聴は、なるべく早めの治療がいいと言われています。とはいえ、「耳鼻科が空いている範囲で早めに受診する」と考えていただければ大丈夫ですよ。急な難聴が起こったからといって夜中に救急外来を受診しても、残念ながら突発性難聴の場合はあまり意味がありません。耳鼻科の先生が不在で聴力検査ができず、きちんと診察できないことがほとんどだからです。

少し前にSNSで、「72時間以内の治療が大事」というコメントが拡散されていたことがありましたが、この72時間という数字にあまり根拠はありません。症状が重い突発性難聴の方にはステロイドの点滴治療のために入院をすすめることがあり、仕事を休んででも早めの治療をすることが大切ですよ、ということを伝える意味で「72時間以内の治療が大事ですよ」と言った先生はいるかもしれません。

突発性難聴は「72時間」を過ぎたらダメ?! 耳鼻科の先生に聞いてみた_img0
 

ところがSNSでは「72時間」という数字が一人歩きしたことで、私がSNSで観察した範囲でも、72時間以内に救急外来に行ったのに診察できなかったとか、もっとひどいケースでは、72時間過ぎたから病院に行っても無駄だと思い放置したなど、いろいろな誤解が生まれていました。今の時代、私も患者さんへ行う説明についてはより慎重にならなくてはと思った一件でしたね。

話が少し逸れましたが、アメリカなどのガイドラインでは“2週間以内の治療が望ましくステロイドも使いたければどうぞ”くらいのニュアンスなんですよ。つまり、72時間にこだわらなければならない十分な医学的根拠はないということです。

もっとも、アメリカと異なり早めに耳鼻咽喉科を受診できる日本では、可能な範囲で早期にステロイドを投与する方がよい、という考えが一般的だと思います。僕自身も外来で突発性難聴と判明した方には基本的に早期のステロイド投与を勧めています。

いずれにせよ、治療は基本的に聴力検査などの耳鼻咽喉科での診察・検査を行ってからということになりますから、夜間に緊急で対応するべき病気というわけではないですね。

 


2.メニエール病とは違うの?


突発性難聴とメニエール病は違います。メニエール病も感音難聴の代表格ですが、こちらは原因がはっきりとわかっていて、内耳のリンパ液が増えすぎてしまう「内リンパ水腫」によって起こる病気なんです。今回のテーマは突発性難聴ですが、難聴が起こると「メニエール病かな?」と不安になる方も多いと思いますから、少しだけご説明しましょう。

突発性難聴は「72時間」を過ぎたらダメ?! 耳鼻科の先生に聞いてみた_img1
 

メニエール病は難聴を伴うめまい発作を繰り返す病気で、突然片耳がキーンと鳴る、目がぐるぐるまわるといった症状が現れます。発作状態は数時間続くこともあって、その間は仕事へ行くことも困難になります。医学的根拠はありませんが、経験からいうと、メニエール病の患者さんには真面目なタイプの方が多い傾向にあると思います。

めまいのような症状は、そのしんどさが周りから理解されづらいということも患者さんにとってつらい点ですね。メニエール病はストレスや疲れの影響も大きいと言われていますから、ストレスがかかった時に発作が起きる。しかし、休むとなると周囲からさぼっているように思われたりしてそれはそれでつらい、という患者さんもしばしばみますから、ぜひ周りの方の理解が進んでほしいと思います。

またこれは診断について知っておいてほしいことですが、聴力検査やめまいの検査などを適切に行ったとしても、メニエール病の初回発作については突発性難聴と診断されることがあります。これは、初めて発作が出た段階では“その後も繰り返すか”というメニエール病の特徴の有無がわからないから、というのが最大の理由です。前回も申し上げたように、突発性難聴でもめまいを伴うことは珍しくありませんしね。

またもう一つ、大事な点として、突発性難聴はなるべく早いうちにステロイドによる治療を行うことが望ましいため、「まずは突発性難聴として治療しながら、他の病気ではないか探っていく」という方針が取られることが多いんです。最初に突発性難聴と診断され、後になってメニエール病と分かった時に「あれは誤診だったのか」と思う人がいるのですが、そういうわけではないんですよ。

最後に、メニエール病と似たようなメカニズムで起こっていると考えられるのが「急性低音障害型感音難聴」です。その名の通り、低音のみで聞こえが悪くなっているのが特徴です。治療自体は突発性難聴に準じて行われたり、メニエール病に準じて行われたりします。急性低音障害型感音難聴は比較的治りやすいですが、困ったことに再発しやすいという特徴をもっています。

いずれにしても、耳が詰まった感じや聞こえづらいなどの症状がある場合は、自己判断せずに早めに耳鼻科の先生に相談してくださいね。

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前田陽平 Yohei Maeda

大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科。耳鼻咽喉科専門医・指導医・医学博士。アレルギー学会認定専門医・指導医。Twitterでも耳鼻科や医療関連の情報を発信している。
【Twitter】ひまみみ 耳鼻科 前田陽平(@ent_univ_)


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全4回】
第一回「突発性難聴の原因と症状「突然耳が聞こえなくなる」原因を耳鼻科医が解説」>>
第三回「突発性難聴ってどうやって治すの?診察と治療法を医師が解説」
第四回「突発性難聴はクセになる?繰り返さない&発症させないための生活習慣とは」