Go Toトラベルは空振りか?
政府が強い意志をもって推し進めたGo Toキャンペーンですが、残念ながら決して順調とはいえない滑り出しとなりました。本書によれば、「全日本シティホテル連盟(JCHA)の発表において、全国120の加盟ホテルの客室利用率は7月で30.5%、8月は32.7%と、キャンペーン開始後も苦境に変わりがなかった」ことを伝えています。
「ようやく京都をはじめ各地の観光地に久しぶりの賑わいが戻り始めたのは、9月下旬のシルバーウィークだったのである。つまりGo Toトラベル・キャンペーンがようやく本領を発揮しはじめたのは、7月の開始からすでに2か月も経過してからのことだったのだ。第二波の感染拡大を危惧する世論や地方の不安の声を押し切ってまでのキャンペーンの前倒し強行にいかなる意味があったのかを考えると、やはりこれは『迷走』であったといわざるをえないだろう」
多くの旅行者を生むはずだった「東京」のキャンペーン除外、各都道府県知事が表明した「全国一律」への異議。Go Toトラベル・キャンペーンの裏側にはこうした問題があったものの、本書ではこの迷走があってこそ、「今後の日本の新しい観光を考えていくうえで、最初の示唆となるだろう」と考えます。
「『Go Toトラベル!』と威勢よく号令するにしても、一体、どこの誰にどこへ旅行に行けと呼びかけたらいいのだろうか。都市部の感染多発地域に『旅行をしよう!』と呼びかけていいのだろうか。そして、たった数人でも感染者が発生したら医療崩壊してしまうような離島やへき地に観光客を送り込んでいいものなのか。一口に観光支援といっても、実際には各地域の状況やニーズによって実に個別的な判断と対応が必要とされていたのである。
Go Toトラベルの空振りは、まさに政府による全国一律の観光政策がそれぞれの地域の実情に寄り添うことの難しさを象徴するものだったといえるだろう。しかし、その点こそがコロナ以後の観光の復活、そして「新しい旅」においてキーになるのだ」
現在進行形で課題が山積するGo Toトラベル・キャンペーン。日本における観光産業を今一度考えるうえで、本書が参考になることは言うまでもありませんが、教えてくれるのは決して数値的な側面だけではありません。
目の前に迫る感染拡大の恐怖と「許されない」と言い放たれた状況下に置かれてもなお、知恵を絞り、不断の努力を続ける観光業界で働く人々の実情と、ホンネを伝える一冊でもあるのです。
※本文引用の情報は2020年9月執筆時点のものです。
『観光は滅びない 99.9%減からの復活が京都からはじまる』
著者:中井治郎 星海社 900円(税別)
京都から人が消えたーー。コロナ禍で浮き彫りになった観光立国・日本の課題、そして京都が取り組む観光復活の最前線を追った、ウィズコロナの観光業を考えるきっかけになる一冊です。
構成/金澤英恵
著者プロフィール
中井治郎さん
社会学者。1977年、大阪府生まれ。龍谷大学社会学部卒業、同大学院博士課程修了。大学に身を潜め、就職氷河期やリーマンショックをやり過ごしてきた人生再設計第一世代。現在は京都で暮らしながら旅行に出かける合間に非常勤講師として龍谷大学などで教鞭を執る。専攻は観光社会学。主な研究テーマは文化遺産の観光資源化。著書に『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』(星海社)など。