行きつけの居酒屋で夜な夜な恋と仕事のタラレバ話の女子会。リアルなアラサー女子をとことん描き切るドラマは東村アキコ原作の『東京タラレバ娘』だけに限りません。パリを舞台にしたドタバタラブコメディ『ガールフレンズ・オブ・パリ』(英題:Hook Up Plan)に登場する3人娘も痛々しくも、たくましいキャラクターが売り。フランス流にタラレバから卒業する方法も指南してくれます。

『ガールフレンズ・オブ・パリ』Emmanuel Guimier


アラサー女子の悩みは万国共通?


アラサーのタラレバ娘がパリにもいました。Netflixフランスのオリジナル人気シリーズ『ガールフレンズ・オブ・パリ』の主人公は市役所務めの独身30歳のエルザ(ジタ・ハンロット)。2年前に終わった恋からいまだ抜け出せず、父親の家のソファで寝泊まりする日々。そんな彼女を心配する親友のシャーロット(サブリナ・ウワザニ)とエミリー(ジョセフィン・ドライ)がマッチングアプリを利用してとんでもない計画を思いつきます。

『ガールフレンズ・オブ・パリ』Stephanie Branchu / Netflix

それはエルザを口説くために男娼を雇うというもの。ただし、恋に落ちていくのは計画外。何も知らないエルザはどうなってしまうのか――。ここからパリのタラレバ娘たちのドタバタ劇が始まっていきます。見どころは「噓から出た実」に繋がる着地点。積み重なっていく嘘の上塗りが回収されていった時、一気に押し寄せてくる安堵感を味わえます。

とは言え、フランス流の脱力感たっぷりのラブコメディに見慣れていなければ、戸惑いを感じるかもしれません。日本のドラマとも、ハリウッドのドラマとも違う空気感が確かに流れていますが、アラサー女子の悩みは万国共通であることが伝わってきます。

「私にも運命の人が現れたらいいのに」「男よりも仕事を取る生き方ができれば自分らしいのに」「夫をもっと信じられたら幸せなのに」と、タラレバの率直な想いをずけずけと台詞に乗せているからです。手狭なアパルトマンで慎ましく生き、目を見張るような美人でもなく、ファッショニストでもない平均的なアラサー女子を描いていることも距離感を縮めてくれます。

 


外出制限中のパリを舞台にしたエピソードが追加


そして、エルザの恋も親友たちの仕事や結婚生活もそれぞれがタラレバから一旦卒業していく姿を見届けることができます。それぞれが納得のできる答えを掴み取る過程にある、女性同士の友情物語の行方にも爽やかな展開が期待できるはず。これ以上詰め込めるものがあるのかと思った矢先、コロナ禍でロックダウンになったパリを舞台にした新エピソードが追加されたところです。タイトルはその名も「ロックダウン・イン・パリ」。エルザから元カレまで登場人物が勢ぞろいし、無鉄砲な計画から始まるストーリーを復活させています。

お約束通り「自分にも何かできたらいいのに」のタラレバ癖から「何ができるのか」の行動へと変えていくわけですが、外出制限中の過ごし方を描いたシーンがある意味見せ場になっています。誰しも経験したことのない状況下で不安が募るばかり。一日に何度も消毒を繰り返したり、ライブストリーミングに没頭したり、にわか思想運動を始めたり、Netflix漬けになったりと迷走する姿がなんともリアルに描かれているのです。

『ガールフレンズ・オブ・パリ』の新エピソード「ロックダウン・イン・パリ」より

もちろん、ロックダウン版でもエルザのロマンチックは止まりません。コロナ禍で日本ではラブコメ韓流ドラマブームが巻き起こりましたが、各国でも笑えて泣けるラブストーリーに人気が集まったそうです。フランス流にまだ手を出していなければ、1話30分弱のサイズで気軽に見られ、フランスならではの味わいがある『ガールフレンズ・オブ・パリ』もオススメです。

【画像】アラサーのおしゃれの参考にもなるパリのタラレバ3人娘>>


前回記事「パトリシア・フィールド全面協力!おしゃれ好きが夢中になる『エミリー、パリへ行く』」はこちら>>

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

ライター 渥美 志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。yahoo! オーサー、コスモポリタン日本版、withオンラインなど、ネット媒体の連載多数。食べること読むこと観ること、歴史と社会学、いろんなところで頑張る女性たちとイケメンの筋肉が好き。寄稿中の連載は、
「yahoo!ニュース」『アツミシホのイケメンシネマ』
「COSMOPOLITAN」日本版『女子の悶々』
「COSMOPOLITAN」日本版『悪姫が世界を手に入れる』
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ライター 山本奈緒子
1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『FRaU』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。

 
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