「スマホを見せろ」妻を支配する夫の衝撃の行動


絵梨香が去ったあと、美穂はしばらくカフェの席から動けなかった。

早く買い物を済ませなくてはならない。湊人がもうじき学校から帰ってくる。出張から戻る貴之のためにも、今日は少し凝った料理を作らなければならない。

時間に余裕はないのに、美穂はただ冷めたチャイティーを握ったまま絵梨香の言葉を反芻していた。

自分の生活は、おかしいのだろうか。貴之がモラハラ?そんな、大袈裟な。

美穂はスマホを取り出すと、30件近く溜まったLINE通知を見ないようにして、恐る恐る「夫 モラハラ」と検索してみる。

「スマホを見せろ...」妻を支配したいモラハラ夫の、恐ろしすぎる衝撃行動スライダー3_1
「スマホを見せろ...」妻を支配したいモラハラ夫の、恐ろしすぎる衝撃行動スライダー3_2
「スマホを見せろ...」妻を支配したいモラハラ夫の、恐ろしすぎる衝撃行動スライダー3_3
「スマホを見せろ...」妻を支配したいモラハラ夫の、恐ろしすぎる衝撃行動スライダー3_4

『夫と一緒にいる時に息苦しい。夫の帰宅時間が近づくと動悸がしたり、緊張して体がこわばったりする。夫の機嫌を損ねるのが怖い。夫の怒った顔が浮かんだり、怒鳴り声が聞こえる気がする……』

「モラハラを受ける妻の特徴」という記事を読み進めるほど、身体に寒気が走った。

けれど専業主婦ならば、誰しも少なからずこんな経験はあるのではないだろうか。最近は妙にフェミニズムが流行っているから、やはり大袈裟に取り上げられているに違いない。

ふと我に返ると、かなり時間が経っていた。

美穂は大急ぎでスーパーに向かうと、悩んだ末、手作りに見えそうな惣菜を手当たり次第購入し帰宅した。

「……おい、今日の夕飯は何だったんだよ」

湊人が就寝したあと、夫は明らかに苛立った様子で美穂に詰め寄った。彼は夕飯時から顔を歪めていたから、美穂が料理に手を抜いたのがバレたのは予想がついていた。

あれこれ言い訳は考えていたものの、嘘をついても貴之はきっと見破るだろう。美穂は正直に答えることにした。

「ごめんなさい。絵梨香がお誕生日のお祝いに来てくれて、どうしても時間がなくなって……。ほらプレゼントも貰ったの。化粧品をこんなにたくさん……」

「化粧品買うくらいの金、渡してるよな」

「え……?」

「そんなモノ貰うために家族が適当なメシ食わされるなんて、理不尽じゃないか?」

夫の言葉が、一瞬理解できなかった。

「それに何でプレゼント貰うだけで夕飯が作れないの?そんなに長い時間、何してたの?」

咄嗟に答えられず、美穂は唇を噛む。

「……携帯、見せて」

「え、な、何で……」

「またお前がスジの悪い友達に何か吹き込まれてないか心配なんだよ」

すると貴之はキッチンに置かれている美穂のスマホに手を伸ばした。

「ちょ、ちょっと待って。別に変なことなんかない!ただお喋りしてただけよ。ねぇお願い……」

貴之は抵抗する美穂の手を乱暴に振り払い、舌打ちをしながら「暗証番号は?」と妻を睨む。

特にやましいことなどないが、もしものメッセージが夫の目に入ったら。絶対にタダでは済まない。美穂は必死に貴之の腕にすがりついたが、その度に跳ね除けられた。腕に痛みが走る。しかしそれどころではない。

「ああもう。なら分かったよ」

すると貴之はさらに苛立った様子で、真っ直ぐに洗面所へ向かった。美穂はわけも分からぬまま後を追う。

「ちょっと、待っ……」

次の瞬間、美穂は信じられない光景を目の当たりにした。

夫は乱暴に風呂場のドアを開けると、迷いなく美穂のスマホを湯船に投げ込んだのだ。

「夫に見せられないスマホなんて、いらないよな」

スマホはあっさりと湯船の底に沈んでいった。

ゆらゆらと揺れる湯の中で、待受に設定した湊人の写真が、歪んだ笑顔で母を見つめていた。

 
NEXT:1月9日更新
美穂を「正直になったら?」と諭した絵梨香。実は彼女自身も夫婦関係に問題を抱えていた。
 
撮影協力/ララ ファティマ表参道ブティック
撮影(1枚目、最後の写真除く)/大坪尚人
構成/片岡千晶(編集部)