40歳という節目で、女性は自らの生き方を振り返るものではないでしょうか。
 
「こんなはずじゃなかった」と後悔しても過去は変えられず、心も身体も若い頃には戻れない――。

これは立場の異なる二人の女性が人生を見つめ直す物語。

夫のストレスに苛まれる専業主婦の美穂は、親友の早希の誘いで久しぶりに女友達と集まるために外出した先で意外な男と出会ってしまった

 

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私の幸せは「何もしない」こと。夫に養われる妻が払う人生の代償スライダー1_1
私の幸せは「何もしない」こと。夫に養われる妻が払う人生の代償スライダー1_2
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私の幸せは「何もしない」こと。夫に養われる妻が払う人生の代償スライダー1_6

「母親」が忘れていた感覚


それは、実に久しぶりの感覚だった。

「美穂ちゃんに会えて嬉しいよ。相変わらずきれいっていうか……」

大学時代ぶりに再会した長谷川透は、美穂の古い記憶よりも丸みを帯びた輪郭をしていて、顔にもあちこちに小じわやシミが目立つ。

けれどそれはそのまま自分も同じだろう。ハタチの頃の自分しか知らない男が突然40歳目前の女を目にして、一体どんな落差を見出すのかと思うと恐い。

なのに、うまく目が逸らせない。目が乾いて、瞬きの数だけが不自然に増える。

「むしろすごく女っぽくなったね。でも優しい雰囲気は変わってないなぁ」

そう言って自分を好奇心たっぷりに見つめる彼の瞳こそ、サークルで人気者だった青年の頃のまま何も変わっていない。

「美穂ちゃんみたいなしっかり者と違って、絵梨香たちはどうせ遅れるだろ。お酒大丈夫?スパークリングでも飲もっか」

透はさっと手を挙げると、素早く注文を済ませた。

「そのワンピース似合ってるね。そういえば昔からおしゃれだったよね」

そして再び美穂に向き合うと、ニコリと微笑む。今度はあからさまに目を逸らしてしまった。

夫以外の異性と二人きりで会話するなんて一体何年ぶりだろう。

恐い、くすぐったい。いっそ逃げ出してしまいたい。

意思に反して気分が高揚してしまわないように、美穂は過去の経験を必死に手繰り寄せてこの感覚を思い出す。そして、気づいた。

自分は随分と久しぶりに、「女の子扱い」されているのだと。

【写真】可愛い子供に裕福な生活……自由のない専業主婦・美穂は幸せ?
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