「仏像」という言葉でどの街を思い浮かべるでしょうか? 奈良? 京都? 関東では鎌倉? 「横浜の仏像」という、珍しいというよりは「はじめての」展覧会が、横浜市歴史博物館で開かれています。「しられざるみほとけたち」というサブタイトルを持つこの展覧会の見どころについて、『ARTBOX 切手で仏像』の著者・山本勉先生に教えていただきました。

 


横浜の地に伝わる、個性豊かなみほとけたち


武蔵国と相模国の境にあたる横浜の地に仏教文化がもたらされたのは奈良時代(8世紀後半)。以来、信仰はこの地に根付き、多くの仏像が守り伝えられてきました。「横浜の仏像 しられざるみほとけたち」展は、時代ごとに多彩な姿を見せる仏像、横浜市域に伝わる仏像を体系的に紹介する初めての展覧会です。

十一面観音菩薩立像 平安時代 弘明寺(横浜市南区) 重要文化財

横浜最古の寺・弘明寺(ぐみょうじ)に伝わる十一面観音菩薩立像は、鉈(なた)彫りという、表面にノミの痕を意図的に残す手法で彫られています。カヤの木の一木(いちぼく)造り、東国に残る個性豊かな平安仏です。

阿弥陀三尊像のうち阿弥陀如来坐像 平安時代 證菩提寺(横浜市栄区) 重要文化財

都で仏師・定朝(じょうちょう・?~1057)が確立した日本の仏像の様式は定朝様(じょうちょうよう)と呼ばれ、各地の仏像に影響を与えました。證菩提寺(しょうぼだいじ)に伝わる阿弥陀三尊像中尊の阿弥陀如来坐像も平安末期のすぐれた定朝様の像で、ヒノキの寄木(よせぎ)造りです。丸顔でゆったりと坐っておられますが、次の鎌倉時代に向かう新しい要素もみられるそうです。

釈迦如来立像 鎌倉時代 真福寺(横浜市青葉区) 重要文化財

真福寺の釈迦如来立像。清凉寺(せいりょうじ)式として知られる、京都・清凉寺の釈迦如来像の模像です。清凉寺像はインドから中国に渡り日本に伝わったという意味で「三国伝来」と呼ばれますが、真福寺の像もそのエキゾチックな趣を写しています。古く国の指定を受けた像ですが、公開の機会はいままで少なかったものです。

十一面観音菩薩坐像 鎌倉時代 慶珊寺(横浜市金沢区) 県指定文化財

慶珊寺(けいさんじ)に伝わる十一面観音菩薩坐像は、台座に腰掛けて片手を地につき片足を踏み下げる「遊戯坐(ゆげざ)」という姿勢の像です。中世の鎌倉で流行したニューモードです。
平安、鎌倉と「横浜の仏像」を見てきましたが、「切手になっているような有名な仏像と同じ時代の仏像が、横浜市内にも残っていることを思うと、横浜という都会の町がまったく違う見え方をしてきます」と山本先生はおっしゃいます。展覧会で「しられざるみほとけ」に出会い、「知られざる横浜の姿」にも出会うのはいかがでしょうか。
 

切手で知る「仏像のひみつ」—『ARTBOX 切手で仏像』

『ARTBOX 切手で仏像』p.36-37

釈迦如来や観音菩薩、その違いがわかりますか? 『ARTBOX 切手で仏像』では、如来、菩薩、明王、天について、その特徴を分かりやすく解説しています。

『ARTBOX 切手で仏像』p.8-9

郵便切手のモチーフになった仏像は、長く愛されてきた名品。懐かしの切手や珍しい切手を原寸大と拡大を組み合わせて紹介しています。「鎌倉の大仏」は日本最初の仏像切手として、昭和14年(1939)に発行されました。額面は1円です。

『ARTBOX 切手で仏像』p.62-63

 

奈良・中宮寺の菩薩半跏像の50円切手は、同じ図案で5回発行されました。そんな切手や仏像に関するコラムも充実しています。
『ARTBOX 切手で仏像』で楽しみながら仏像の知識を増やし、展覧会に出かけてみませんか。
 


「横浜の仏像 しられざるみほとけたち」展

会期:2021年1月23日(土)~3月21日(日) 会場:横浜市歴史博物館(横浜市都筑区中川中央1-18-1)
開館時間:午前9時~16時30分(入館は16時まで)休館日:月曜日
*会期中一部展示替えがあります。
*オンラインでの日時指定チケットの購入も可能です。また今後の状況により、イベントなどについて変更する場合がありますので、ホームページまたはお電話にて確認をお願いいたします。

横浜市歴史博物館は、横浜市営地下鉄センター北駅から徒歩5分。

 

チケット読者プレゼントのお知らせ
5組10名様に「横浜の仏像 しられざるみほとけたち展」鑑賞券をプレゼント

横浜市歴史博物館で開催される「横浜の仏像 しられざるみほとけたち展」(2021年1月23日~3月21日)の観賞券をプレゼントいたします。

応募締め切り:2月10日(水)〜11:59まで
●応募にはmi-mollet(ミモレ)の会員登録(無料)が必要です。
●プレゼントのご応募は、1回までとさせていただきます。
●当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

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『ARTBOX 切手で仏像
著者 山本 勉

切手という極小の画面からのぞく「仏像のひみつ」
郵便切手のモチーフとなった仏像は、日本人から長く愛されてきた名品ばかり。その仏像切手を題材に仏像の歴史や特徴をやさしく解説する、ひと味違った仏像入門書。切手の蘊蓄(うんちく)コラムは「切手の博物館」学芸員・田辺龍太さんが担当。懐かしの切手や珍しい切手を原寸と拡大図版で紹介しているので、切手ファンにもおススメ。全35体の仏像のひみつを小画面から探ります。

 

山本 勉
1953年神奈川県生まれ。東京芸術大学大学院博士後期課程中退。東京国立博物館彫刻室長、同教育普及室長、清泉女子大学教授などを経て清泉女子大学名誉教授。東京国立博物館名誉館員。著書に『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代造像銘記篇』(共編著・中央公論美術出版)、『仏像のひみつ』『続 仏像のひみつ』(以上、朝日出版社)、『日本仏像史講義』(平凡社新書)、『運慶大全』(監修・小学館)などがある。

構成/からだとこころ編集チーム