俳優の酒井美紀さんが不二家の社外取締役に就任するというニュースを読みました。会社の広報によれば主婦の立場から経営に助言してほしいとの要望で今回の就任が決まったと記事にはありましたが、社外取締役は非常に責任の重い仕事です。

 

私もTwitterのある呟きで知ったのですが、酒井美紀さんは2007年から発展途上国の子供たちを支援する活動にもかかわっていて、さらに、演劇を通じた子どもたちへの教育等の国際協力に関する研究をするため大学院にも行っているそうです。そのような知見と覚悟を持って引き受けたということであれば、広報も記者ももう少し就任目的を丁寧に説明してほしいものです。

一般的に、均質性が高い会議では同じような意見しか出づらく、属性だけではなく多様な経験や価値観、知見を持つメンバーがいることが企業のガバナンスやイノベーションにつながると言われています。

東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の前会長による「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」「わきまえて」発言が物議をかもしましたが、女性がここで本来求められている役割はむしろ逆。組織内で多数を占める属性とは異なる立場から発言することにこそ意味があります。

2012年末からの安倍政権下で女性活躍が謳われ、2020年までに様々な組織での女性管理職比率向上が目指されていました。その目標が達成されないまま2021年になりましたが、海外の投資家などは引き続き、取締役会の女性比率等をチェックしています。

その中で、女性や外国人、生え抜きではない人材を社外取締役に登用する動きは今後も続いていくでしょう。最近、スポットコンサルの「ビザスク」、フリーランス女性と企業とのマッチングや離職女性の再就職支援に取り組む人材エージェント「Waris」も、相次いで社外取締役のマッチングサービスも開始しています。

先日Warisが開催したセミナーでは、社外取締役経験者の女性たちはその役割について「株主やその価値の源泉となる従業員の利益等を上げる上で、それに資すると思えない人を解任する権限があり、非常に責任の重い職務」(崔真淑さん)、「”革靴の外から足を掻くようだ”と表現されるように、外から内側の状況を把握し適切な意見を出すという難しい作業」(小安美和さん)と表現していました。

しかしながら、自分の知見を活かせる分野であれば1人で全ての視点を持つ必要はなく、状況把握は現場に通うこと等で補いながら、自分の役割を果たすことはできる。セミナーの後半では「異質な存在として、男性だらけの経営陣の同調する空気を壊すという意義がある」(崔さん)「やってみてよかったと自信を持って言えるので、泣きながらでもチャンスが来たらやってみてほしい」(小安さん)との力強いメッセージもありました。

ダイバーシティ、女性活躍……。最近はその議論も一時期よりやや後退してきたようにも見えますが、五輪組織委の退任騒動を経て、むしろ「わきまえずに」発言をしていきたいですね。


社外取締役を迎える側の組織も単に「女性が入ってくれさえすれば誰でもいい」という姿勢ではなく、企業に欠けている資質を見極め、そうして来てくれた人たちの発言に、きちんと耳を傾けてほしいです。

前回記事「Clubhouseの熱狂で何が見えなくなっているか」はこちら>>