女たちの“風の時代”の決断
「透さんは……実は、会うのも連絡とるのもやめたいってハッキリ伝えた」
皆の前で宣言すると、胸に詰まっていたものがすっと流れるような感覚があった。
透から告白を受け、それを一旦断った後も、彼はマメに連絡をくれた。透の対応はあくまで健全で、必要以上に距離を詰めるようなことはしなかったけれど、美穂は結局、別れを選んでしまった。
離婚調停に湊人のケア、そして自分自身の自立。
今後この3つの課題を達成しなければならない中で、透の好意は有難い一方、ともすれば保険をかけているような罪悪感も持たずにはいられなかったのだ。
曖昧な関係を器用に続ける器が自分にはないことも分かっている。無理をすれば余裕もなくなるだろうし、不本意に過ちを犯す可能性も怖かった。
「……なんだか美穂、本当に成長したね」
「そんなことないよ。今までが酷かっただけで」
「ううん。美穂を見てると、人はいくつになっても再スタートできるんだって実感する。それに“何かを手放す”って本当に重要だよ。そうすれば絶対に新しいものが舞い込んでくるのに、頭で分かってても実行に移すのは難しいから。でも実際、美穂は仕事も掴み始めてるわ」
早希の力強い言葉に、目頭が少し熱くなる。
もちろん、透との別れは辛かった。
けれどその反面、早希に提案した“離活”の企画も通り、美穂は慣れない仕事をこなすため日々必死に奮闘している。すると寂しさに浸る暇はそれほどなかった。
それにもし彼と縁があれば、またきっと自然に再会できる。そんな根拠のない確信もあった。
「なるほど面白い、これぞ“風の時代”ですね。自分がその気にさえなって風に乗れば、どこまでも飛んでいける。早希さんの転職も美穂さんの離婚も、時代を象徴する決断だったんじゃないですか?」
隼人が神妙にそう言ったので、女たちは顔を見合わせた。
「そうね……“風の時代”。じゃあ次は、どんな風に乗ろうか?」
その後はまるで青春時代のように、皆で将来の夢や理想を語り合った。
ほんの数ヶ月前、夫のモラハラに耐え、世間の体裁を気にして家に篭りきりだった頃、一体どうやってこれほど変わった自分を想像できただろう。
たった一歩。とにかく、ほんの小さな一歩でも。
勇気を出して普段とは違う場所に足を踏み出せば、自分を取り巻く世界は驚くほど変わっていく。
結局、自分を変えられるのは自分だけ。
この“風の時代”をしっかりと生き抜き、愛する仲間や家族と楽しみや幸せを存分に分かち合いたい。
美穂は温かい気持ちで、そう強く願った。
(完)
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