――登場する人々はそれぞれ立場は異なりますが、どのキャラクターにも自然と、自分自身を重ね合わせてしまいます。

益田作中にミナミさんという女性が出てきます。いつも明るく元気いっぱいのミナミさんですが、心ない言葉に傷つき地団駄を踏みたくなるような夜もあります。そんな彼女もまた知らず知らずのうちに誰かを傷つけているのです。ミナミさんは自分の一言が誰かを傷つけたことには永遠に気づかないでしょう。その鈍感さをわたしを含む誰もが持っているということが描けていればいいなと思います。

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スーパーの惣菜売り場で偶然再会した、高校の同級生だったカホとミナミ。どこにでもある他愛の無い会話がきっかけとなり、小さな虫歯のような無痛の傷が2人の中に蓄積していく。(『カホ』より)


――益田さんご自身は、本作の「スナック キズツキ」のような、「手すり」となる存在はお持ちでしょうか。

 

益田田辺聖子さんのエッセイがママになってくれる日もあれば、津村記久子さんの小説がママになってくれる日もあります。本の扉がわたしの「スナック キズツキ」への入り口なのかもしれません。ときに、フルーツパーラーの豪華なパフェにも助けられています(笑)。

漫画『スナック キズツキ』は、都会の路地裏にある架空のスナックです。アルコールは置いていませんが、ママの不思議な接待があります。彼女はなにも否定せず、がんばれとも言いません。疲れた夜にもゆったり読めるよう大きなコマ割になっています。ぜひご来店くださいませ。

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『スナック キズツキ』
著者:益田ミリ マガジンハウス 1300円(税別)

アルコールを置いていない路地裏のスナック。傷ついた人にしか見えない「スナック キズツキ」は、どこかで誰かと関わり合いながら生きている8人が、心の積み荷をちょっとだけ下ろせる場所。ママの奇想天外な接客に思わず笑いがこぼれる、くたくたな夜にこそ読みたくなる一冊です。


取材・文/金澤英恵