あなたは、ドラマや小説などで事件の謎を解決していく推理作品は好きですか?中でも、特に犯人の心理描写や、リアリティな展開を重視するという人に、是非読んでいただきたいマンガがこちら。3月10日に8巻が発売された『ミステリと言う勿れ』です。

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ミステリと言う勿れ』(1)田村由美 著 

本作の特徴は、読み手をその世界に引き込む、本質をつく長セリフ。1ページあたりの文字数が非常に多い!のですが、主人公が関係者との会話で事実に近づいていく過程が、小説のような読み応えがあるのです。

 


主人公は、天然パーマでブロッコリーヘアの男子大学生、久能 整(くのう ととのう)。特徴的なのはこの外見だけでなく、中身も。学生とは思えない博識ぶりと洞察力、そして常に落ち着き払った雰囲気ながらもとにかくしゃべりまくります。たとえ、相手が誰であっても。

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警察に、ある事件の容疑者と疑われてもこの長セリフ。
(C)田村由美/小学館

彼は、記憶力が非常に良く、相手のちょっとした一言や仕草を覚えていて、それらをつなぎ合わせることで相手の本質を見抜きます。第一話で、その本質を言い当ててしまう相手は犯罪者ではなく、警察の人間たちです。

整(ととのう)くんの家の近所で、ある日殺人事件が発生します。その被害者は彼の同級生でした。彼は「被害者と公園で言い争いをしていた」という目撃証言による容疑をかけられ、警察署で取り調べを受けることになってしまいます。

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警察官たちの本質を、次々と言い当てていく整(ととのう)くん。

警察の連日の取り調べにもひるんだりおびえることなく、警察官一人一人のことを冷静に言い当てていく整くん。なんでそんなに落ち着いてるんだと聞かれると、自分は「何もしてませんから」。

本作では各ストーリー内にかなり細かな伏線が張られており、なんとなく読み進めてしまったシーンに重大なヒントが隠されています。全てが彼の言葉で語られた後、登場人物だけでなく、わたしたち読み手側も整くんの観察力に驚くという仕掛けになっているのです。

そして、この作品のスタンスを示すフレーズがこちら。

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「人は主観でしか物事を見られない」からこそ、の整くんの考え。

「真実は人の数だけあるんですよ
でも、事実は一つです。起こったことは」
「警察は調べるのは真実ではなく、事実。真実とかいうあやふやなものにとらわれるから冤罪事件とか起きるんじゃないですか」

整くんは、いつも事例を挙げながら語ります。このセリフの時には、「Aという人間がBという人間と階段でぶつかってBがケガをした」という状況を例に出します。

「Bは日頃からAにいじめられてて、今回もわざとだと言う」一方で、「Aはいじめという認識はなく、遊んでいるだけで、今回もただぶつかっただけと言う」と場合、どちらを真実と見なすのか?と尋ねています。あなたはどう思いますか。

彼は、根本的には犯人の主張ではなく、何が起こったのかという事実だけを知りたいし、知らせたいのです。けれど、事実を突き止める過程で、真犯人本人すら自覚していなかった深層心理までも解き明かしてしまいます。

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警察官に対し、メジャーリーガーの事例を用いて本質をつく。

そんな整くん自身は、「友達も彼女もいない」世間離れした孤高の雰囲気でとことんマイペース、カレー好きというキャラ。平和にカレーを作っていたり、美術館に出かけた矢先に事件に巻き込まれてしまうというのが彼のパターン。

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カレーを作っていると警察官が来訪してきてしまう。

男子学生が事件を推理し解決するというミステリー、というと思い浮かべる作品がいくつかありますが、読んでみると「これをミステリと言う勿れ…」とタイトル通りにつぶやきたくなってしまうのです。

事件が起きるけれど、主人公がしゃべり出すことで事件の関係者(犯人とは限らない)が語り出すという「会話劇」がメインであり、主人公のキャラが一番の魅力だからかもしれません。

罪を犯す人間の心だけでなく、人間全般の心理に興味がある人にも読んでほしい『ミステリと言う勿れ』、一度読めばその会話劇の世界に引き込まれるはずです。

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田村由美

漫画家。代表作に第38回小学館漫画賞を受賞した『BASARA』、第52回小学館漫画賞少女向け部門を受賞した『7SEEDS』など。マンガ大賞2019で第2位を受賞した『ミステリと言う勿れ』を現在「月刊フラワーズ」で連載中。


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『ミステリと言う勿れ』
著者:田村 由美
小学館 フラワーコミックスα

謎めいた天然パーマの青年・久能整(くのう ととのう)はある日、近所で起きた殺人事件の容疑をかけられ、警察に任意同行される。事件の被害者は彼の同級生。事件の本質を冷静にあぶり出す整が、警察署で語ったこととは…!?


構成/大槻由実子