〔ミモレ編集室〕の編集・ライティング講座の2月の課題は「エッセイを書いてみよう!」でした。「自信」をキーワードに自由な形式でエッセイを書いてもらい、編集バタやんと文芸編集者からエッセイの書き方のコツを学ぶという課題でした。メンバーから寄せられたエッセイはなんと65作品。中でも文芸編集者も感心の珠玉の5作品をピックアップしてご紹介します。
 

たかこさん

妻 母 同居嫁 そろそろ限界😁 毎日のごはん作り+事務仕事に追われる中 息抜きはミモレを見ること 悲喜こもごもは いつもこの台所から~ よろしくお願いします


「最後の晩餐」

 

私達夫婦は友人の紹介で知り合いました。結婚式当日、舅がその友人に「たかこさんを息子に紹介してくれてありがとう」と深々とお礼を言う姿に胸を打たれ、いい奥さんになろうと心に決めたのでした。
そんな初々しい新婚時代に私が一番憂鬱だった事、それは夫の実家で料理を作ることでした。夫だけに作る料理なら、例え塩と砂糖を間違えても笑い話となり甘い思い出になりますが、義家族を巻きこむ失敗の数々は私の気持ちを粉々に崩壊し暗くて塩辛い気分になるものでした。

舅は妻を早くに亡くしていて、実母にあたる祖母が家事を切り盛りしていました。
私達が帰省すると、祖母は台所を私に任せそっと身を引く静かな人で、私は薄暗い台所で泣きそうになりながら、一人料理と格闘していました。今思えば、祖母も私に気をつかっていたんだなぁと思います。

あれは忘れもしません。ある時舅が、「ユリ根をたくさんもらったから料理してくれるか?」と言いました。
「はぁ?ユリ根?球根ちゃいますのん?」と今なら、ユーモアではね返せますが、従順な若かりし頃、期待を裏切ってはいけないと口をつぐみ快諾、家から持ってきた分厚い料理本をこっそりめくりながら、ユリ根ページを探しだし、卵とじのレシピ通りグツグツ炊いてみました。しかし思っていた以上に火の通りが早くグチャグチャ、ユリ根の原型が無惨に消え、なんじゃらほい?なマッシュポテト風ユリ根料理の出来上がりです。それを見た舅から「炊きすぎや!」と一喝され本気で泣いてしまいました。他にも、年越しそばを作る時、生そばを別鍋で湯がかずにお出汁の中に直接入れてしまい、とろみたっぷりなとろとろそばになった事もあります。数えきれないぐらいの失敗をしでかしました。そんな私も、長男を産み次男を産み、同居を始め、祖母を看とり、三男を産み、気づけば結婚して25年。念願だった台所をオールステンレスにリフォーム、暗い台所で一秒もいたくなかった場所が、安らぎの空間に変わりました。

朝は茶粥を炊き、糠床で漬けた漬け物で朝ごはん。
昼は、甘辛く炊いた揚げさんを、おうどんにふんわり浮かべ、とろろ昆布にネギと卵をパラリな昼ごはん。
夜は、ジャガイモとなすびを炊いた煮物にほうれん草のお浸し、きゅうりとジャコの酢の物に鯵の干物を焼いた夕ごはん。
もぅ、ぐうの音も出ませんわぁな舅好みなごはんの出来上がりです。

きっと、最後の晩餐は私の料理が食べたいと言うでしょう。

 

 

〔ミモレ編集室〕では、毎月オンラインの編集ライティング講座を開催。その他にも、さまざまな課題や提出された文章に対する編集者からのフィードバック・添削などを行っています。
文章力を磨きたい!という方はぜひ参加してみてくださいね。


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