「入社当初は、既存のウェブサイト『クックパッド』のクオリティアップにおいて自分の役立ちどころを探そうと思っていたんです」と松浦さんは語る。
しかし、いくら松浦さんが一新人としてやりたいと思っていても、"松浦弥太郎”という実績を知らない人はいない。また、社員の中心年齢が20代という環境では最も年長者になってしまい、既に動いている業務の中にいきなり入ることは難しい。
そんなとき、「せっかくなので、新しい媒体を作ってみませんか?」という提案があり、「ぜひやらせてください」という展開になったという。
しかし、松浦さんは、そこでも過去の実績に甘んじることはなかった。
「何かを始めるなら、まずはみんなに自分を知ってもらい、きちんと僕の思いを伝えなければいけないと思ったんですよ。それで入社してすぐに、社内プレゼンを行ったんです。僕はそこで、なぜ『暮しの手帖』をやめてクックパッドへ来たのか? これからどんなことを考えているかを語り、その上でスタートにあたって力を貸して欲しいと話したんです」
松浦さんは、そのプレゼンを聞いて集まった有志メンバーとともに、『くらしのきほん』という新サイトのプロジェクトを約1週間で一気に生み出したのだという。
「6月1日には社内に公開し、7月1日に実際にスタートさせました」というスピード感にも驚きだ。
50歳を目前に、「もう一度ルーキーに戻りたい!」と、これまでの気心の知れたスタッフを誘うこともなく、たった一人で新しい環境に飛び込んだ松浦さん。「毎日が初々しい気持ちですよ」という印象的なフレーズで、今の心境を語ってくれた。
「今は最年長の新人です。しかもクックパッドの社員は平均年齢が31歳ぐらいだから、20歳くらいの差がある人たちと一緒に仕事をしている。とても緊張感があって新鮮だし、何より自由です。この歳だからこそ、そういう気持ちを失わないような環境に自分を置くことは、とても大事なのだと思っています」
■プロフィール
松浦弥太郎
1965年生まれ。10代後半から20代半ばまでをアメリカで過ごし、帰国後、セレクトブックストア・COW BOOKSをオープンし話題になる。2009年より今年3月まで、『暮しの手帖』編集長を務める。今年4月にクックパッドに移籍。7/1より新たなWEBサイト『くらしのきほん』をスタートさせた。また文筆家としても活躍中で、雑誌や新聞など多数の連載を持つ他、著書も多数。近著に『くいしんぼう』、『松浦弥太郎の男の一流品カタログ』(ともにマガジンハウス)など。
撮影/目黒智子 取材・文/山本奈緒子
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