筋肉細胞は15年も生き続ける
それでは、筋肉の細胞はどうでしょうか。筋肉トレーニングをすると筋肉がすぐに成長したり、使っていないと衰えたりするので、筋肉の細胞もすぐに生まれ変わるのでは、と思われるかもしれません。
しかし、実際にはそうではありません。実は筋肉の細胞は寿命がとても長いことが知られていて、その平均は15年とも言われます。
それではなぜ筋肉トレーニングをして筋肉が成長するのかといえば、これは細胞の数が必ずしも増えるのではなく、一つ一つの細胞の中で筋肉の伸び縮みを助ける筋繊維が多く作られることで、ボリュームが増えるからだと考えられています(参考文献2)。
残念! どうしても免れない筋肉の減少
一方、筋肉量の減少は、50歳頃から始まると考えられています。これは、加齢とともに筋肉を使った刺激に対する応答が衰え、筋繊維を作る働きが鈍ることがその原因の一つに考えられています(参考文献3)。
また、筋肉への血液の流れの悪化、筋肉の成長に関わる成長ホルモンや性ホルモンの分泌量の変化(参考文献4)、筋肉の細胞に関わる神経の働きの変化(参考文献5)も原因として考えられています。
ある動物実験で、高齢の動物から筋肉が採取され、若い動物に移植されました。すると、高齢な動物から採取された筋肉の量や質には大きな回復が見られました。一方、若い動物の筋肉を傷つけて高齢の動物の体内に移植しても筋肉の回復は見られなかったということも観察されています(参考文献6)。
このことから、筋肉の細胞自体が持つ力以上に、筋肉が存在する環境が重要であるということが考えられます。
先に説明した複数の要因が積み重なり、筋肉量は加齢とともに加速度的に減っていくことになります。
特に失われるのは瞬発系の筋肉
また、筋肉の量が減るだけではなく、筋肉の質も変化していくことが知られています。筋肉の筋線維には、マラソンやウォーキングといった持久力系の運動で使われる1型の線維と、ジャンプやパワーリフティングといった瞬発系の運動で使われる2型の線維の2種類があります。この中でも特に、加齢とともに、2型の線維が失われやすいことが知られており、歳とともに1型の線維が優位になっていくことが知られています(参考文献3)。こうしたことにより、瞬発系の運動にからだが対応しにくくなるのです。
このような加齢に伴う筋肉量および筋力の低下は、「サルコペニア」と呼ばれています。このサルコペニアは、死亡の独立した危険因子であることが知られている(参考文献7)ものの、国外の調査にはなりますが80歳以上の最大50%に見られることが報告されています(参考文献8)。
このように、筋肉というのは何もしなければ年齢とともに自然と減っていってしまい、多くの人の健康を害することにつながっていくのです。
参考文献
1 Yaemsiri S, Hou N, Slining MM, He K. Growth rate of human fingernails and toenails in healthy American young adults. J Eur Acad Dermatology Venereol 2010; 24: 420–3.
2 Joanisse S, Nederveen JP, Snijders T, McKay BR, Parise G. Skeletal Muscle Regeneration, Repair and Remodelling in Aging: The Importance of Muscle Stem Cells and Vascularization. Gerontology. 2016; 63: 91–100.
3 Snijders T, Verdijk LB, Smeets JSJ, et al. The skeletal muscle satellite cell response to a single bout of resistance-type exercise is delayed with aging in men. Age (Omaha) 2014; 36. DOI:10.1007/s11357-014-9699-z.
4 Sinha M, Jang YC, Oh J, et al. Restoring systemic GDF11 levels reverses age-related dysfunction in mouse skeletal muscle. Science (80- ) 2014; 344: 649–52.
5 Delbono O. Neural control of aging skeletal muscle. Aging Cell. 2003; 2: 21–9.
6 Carlson BM, Faulkner JA. Muscle transplantation between young and old rats: Age of host determines recovery. Am J Physiol - Cell Physiol 1989; 256. DOI:10.1152/ajpcell.1989.256.6.c1262.
7 Pasco JA, Mohebbi M, Holloway KL, Brennan-Olsen SL, Hyde NK, Kotowicz MA. Musculoskeletal decline and mortality: prospective data from the Geelong Osteoporosis Study. J Cachexia Sarcopenia Muscle 2017; 8: 482–9.
8 Baumgartner RN, Koehler KM, Gallagher D, et al. Epidemiology of sarcopenia among the elderly in New Mexico. Am J Epidemiol 1998; 147: 755–63.
前回記事「長年の腰痛が、手術ではなく「家のリフォーム」で治った話」はこちら>>
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