一筋縄ではいかない怪現象と
くせになるトリップ感


「できそうにない」ことばかりの軟弱な我が人生で、「できたとしてもやらない」行為のひとつに「心霊スポット探検」がある。知らずに足を踏み入れたのならそこにおわす何者かに弁解のしようもあるけれど、物見遊山で行って怒りを買ったツケは値引き交渉の余地がない。

わたしは怪談やオカルトが好きで、怪現象っぽい事案には何度か遭遇してきたものの、はっきりと「幽霊」を見たことはないし、見たいとも思っていない。なのに母親から「あんたオバケとか好っきゃろ、お母さん死んだら出たるわな」と予告されている。彼女もだいぶ年老いて現実味を帯びてきたが本当にやめてほしい。

なので、『東京怪奇酒』(清野とおる・KADOKAWA)における「この世のモノではない異形のモノが出没する可能性のある非日常的空間で、感情を揺さぶらせながら飲酒をする」というコンセプトは「何でなん?」としか思えない。楽しく怖く読み終えた後もやっぱり「何でなん?」と思っている。「東京カレンダー」と対極のTOKYOがそこにはあった。 

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『東京怪奇酒』清野とおる(KADOKAWA)

友人知人から聞いた怪奇体験談(幽霊に限らず、また、体験者自身が確証を持てないものも含む)の現場で、深夜ひとり酒をかっくらう、まさに暴挙。恐怖や緊張で昂った脳にアルコールを投入することによって、清野さんは何とも言えない快感を覚える。トリップというやつだろうか。それがくせになり、無名のスポットを徘徊する彼の珍夜行を読みながら、わたしもプチトリップをさせてもらっている。日頃から奇人変人に異様なまでの「引き」の強さをみせる清野さんだけあって、収集する体験談も一筋縄ではいかないものが多い。住宅街の公園で確かに見た幻の大仏、若かりし日に熱海(もう東京じゃない)の山中で聞いたありえない音など、行かないけど行ってみたくなる、いや行かないけど。怪奇と酒のマリアージュに憑かれた清野さんの身に何が起きるのか起きないのかは、ぜひ読んで確かめてほしい。

 

……って、今、二巻の巻末にあるインタビューを読み返していたところ、この本を買ったあと、怪異に見舞われた人が複数いるという。困ります。
 

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『スモールワールズ』

一穂ミチ

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。

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写真/shutterstock
構成/川端里恵(編集部)