不倫といえば、ドラマや映画、日々流れるネットニュース、芸能ゴシップ、SNSの定番ネタです。それだけ不倫が身近にあり、場合によっては当事者である人が多いということなのかもしれません。夫の不倫と、夫との関係性に悩む妻、というのはよくある話ですが、さすがに「夫の不倫相手と同居する」なんて選択肢はそうそうありません。でも、電子雑誌「ハツキス」で連載中の『インザハウス』は、夫の不倫相手と同居することから始まる、新しい家族のカタチを模索する物語で、なかなかのインパクトを放っています。
とある新築戸建てに引っ越してきた、主人公の橙子、夫の義也、小学4年の啓太と小学2年の花澄という家族構成の瀧澤家。念願のマイホームに入居するというのに、みんなどこか浮かない顔をしています。実は長年、義也の両親も合わせて6人で暮らしており、新たに建てた家も6人で住む予定だったのに、3週間前に義両親が交通事故で亡くなってしまったのです。
家族をあまり省みず、外泊が増えている11歳年上の義也、義母のように料理が上手ではなく、母としての自信を持てずにいる橙子、おじいちゃん、おばあちゃん子だった啓太と花澄は、いつも明るくて家族みんなのまとめ役だった義両親を失ってしまって落ち込んでいることが多く、家族がバラバラな状態に陥っていました。
そんな雰囲気に耐えられない橙子は、お酒に逃げていました。ある日、スーパーで買い物をしていた橙子は、店の外で義也が女性と歩いているところを目撃します。買い物かごを持ったまま、衝動的に店を飛び出そうとしたところ、見知らぬ青年に腕をつかまれ、危うく万引きになりそうなところを引き止められました。
その日の夜、またもやキッチンで酒を飲んでいた橙子。娘の花澄には酒臭さを指摘され、息子の啓太には、「今日、学校の帰りにお父さん見たよ。駅の近くでお父さん、女の人と二人で歩いていたよ」と言われてしまいます。イライラした橙子はつい、「子供は子供らしく黙っていなさい!」と叫んでしまいます。思わず子供に当たってしまった橙子ですが、瀧澤家にとって、何でもできて、みんなを束ねていた義母の存在はあまりにも大きく、バラバラになってしまった家族に何もできない無力感から、酒に逃げていたのです。
橙子がスーパーで買い物をしていると、先日、橙子を引き止めた青年に再会します。彼は橙子が買い物かごに入れていた大量の酒を売り場に戻し、橙子の手を取って強引に公園に連れ出します。ナガイと名乗り、「また会いたいなってずっと思ってたんですよ」という彼に警戒感ありありの橙子でしたが、人懐っこく、酒を買おうとしていた橙子のことを心配してくれたことから、少しだけ心を開きます。
そんな橙子のもとに、義也からの電話が。家にほとんど帰ってこない上に、突然の電話で別れを匂わされたことに腹を立て、電話を切る橙子。すると、さっき別れたはずのナガイが突然現れて、「問題を後回しにするのはよくないと思いますよ」と一言。びっくりする橙子ですが、ナガイには関係ない話。とはいえ、心配してくれるナガイに、夫に付き合っている女性がいることは前から気づいていたことや、義両親を事故で失い、それと同時に家族らしさも消え失せてしまい、母親らしくできずにいる苦しさを吐露してしまいます。
橙子はナガイに背中を押され、義也に交際女性にも同席を求めた上で、話し合いに応じる決意をします。義也と女性が待つ場所に着いた橙子は、夫婦の関係はとうに終わっているからと別れるつもりでいました。ところが、子どもたちもこっそりあとをつけていて、啓太が突然話し合いの場に割り込み、義也の交際女性に、「お姉さんもオレの家に来ればいいよ!」と言い出します。啓太は、このまま家族がバラバラになってしまうくらいなら、父である義也が入り浸っている相手の女性がうちに来れば、父も帰ってくるのではないかと考えたわけです。
義也と橙子は唖然としますが、女性も「別れるくらいなら一緒に住みたい」と言い出す始末。さらにはそこに、謎の青年・ナガイも「橙子さんには僕がいるじゃないですか」と強引に加わってきて、新築の戸建てで奇妙な同居生活が始まることになります。
夫の愛人と、自分に好意的な見知らぬ青年が突然家に転がり込むなんてないない! とツッコミを入れずにはいられないオープニングですが、この奇妙な同居生活を通して、それぞれが家族とは何か、夫婦とは何かを否応なく考えることになります。夫の愛人と、なぜか自分に優しく接してくれる青年という家族にとってこの上ない“異物”が加わることで、見えてくることもあるようです。また、愛人と青年も何やら事情や悩みを抱えているようです。
コメディ的な要素も散りばめられており、現実にはあり得ない設定でも楽しみながら読み進められるのはマンガならでは。家族のあり方は人それぞれであり、どういう形が幸せかはその家族にしかわからないはず、もしかしたら他人の方が家族よりもよき理解者になりうることもあるかもしれません。謎多きナガイくんの存在も相まって、登場人物たちがどういう境地に行き着くのかが非常に気になります。5月20日には最終巻の6巻が発売に。家族の役割にもやもやしたものを感じている人はぜひ一気読みを!
Comment