寿命をまっとうするまで支援や介護を受けず、健康に生きるために何ができるのか。考えなければならない「5つのM」と呼ばれる指標について、以前ご紹介しました。今回は、一つ目の「M」である「Mobility(可動性、移動性)」について詳しく説明します。

 


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運動によってがんのリスクが下がることも


Mobilityの維持のために最も有効な方法は、言うまでもなく運動です。ここからは、運動のエビデンスについてご紹介していきたいと思います。

「運動は体にいい」とはよく言われますが、具体的にどう「体にいい」のでしょうか。これについては、実に多くの研究が行われてきました。そして、実は効用がとても多岐に渡ることがわかっています。

 

「リスク低下」という点で言えば、運動は死亡、心血管疾患、高血圧などのリスク低下と関連します。また、意外かもしれませんが、肺がん、乳がん、膵臓がんなど、少なくとも8種類のがんのリスク低下との関連も示唆されています。

これらは、必ずしも「運動をすればがんにならない」という因果関係を示したものではありませんが、少なくとも密接な相関がありそうです。逆に、静かな生活を送ることが、がんのリスク増加と関連したということを示した研究もあります(参考文献6)

この研究では、運動をしているかどうかにかかわらず、座っている時間が長いほどがんのリスクが増加するという関連性が示されています。日々の活動性というのは、毎日の暮らしの中で目に見えて健康への影響があるとは感じられないかもしれませんが、長期的視野にたてば、十年後、二十年後の健康と密接に関係しているのです。

また、運動はただ病気のリスクを下げるだけではなく、身体機能はもちろんのこと、認知機能や生活の質、睡眠の質を改善してくれる効果も期待できます。

これだけの「病気の予防」や「質の改善」に効果がある薬やワクチンは、この世の中に存在しません。運動は何にも勝るような「良薬」なのです。

 
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