時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。


今年開催される東京オリンピック・パラリンピックには、世界中から少なくとも131名のLGBTQのアスリートが出場する予定だそうです。また、大会史上初めて、トランスジェンダーであることを公表するアスリートが、自認する性別のカテゴリーで出場する、記念すべき大会でもあります。

スポーツの世界では、競技の男女別は生まれたときに割り当てられた性別で区別されてきたため、自身の性を生まれたときに割り当てられた性とは異なる性であると認識しているアスリートは、苦しい思いをしてきました。IOC(国際オリンピック委員会)は2003年に、いくつかの条件を満たし手術を受けて医療的に性別を変えたアスリートに限って自認する性での出場を認め、2015年には手術要件はなくなりました。

オリンピック憲章には、同憲章の定める権利及び自由は、性別及び性的指向を含む「いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない」と謳われています。まさにそれを世界中の人が見届けるのが、この東京大会なのですね。

開催を契機に、昨年10月に開設されたのが「プライドハウス東京レガシー」。日本初の常設の大型総合LGBTQセンターです。東京メトロ丸の内線・新宿御苑駅から歩いて3分のビルの2階にあるカフェのような居心地の良い空間で、LGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニング/クィアなどの頭文字をとった、性的少数者を表す総称の一つ)に関する国内外の書籍を読んだり、相談をしたり、イベントに参加したりできます。

私も先日足を運び、代表を務める松中権さんと、アメリカの大学・大学院で学んだのちにセラピストとしてLGBTQの若者のセラピーを行ってきたスタッフの向坂あかねさんに話を聞いてきました。

プライドハウス東京レガシーは35の団体・専門家、15の企業、20の駐日各国大使館とEU代表部、アスリートやスポーツ関係者などが連携して、LGBTQに関する情報発信を行い、安心・安全な居場所を提供するために立ち上げたもの。もともとは、オリパラ開催時は期間限定の場所をつくり、開催翌年以降に常設の場所の開設を目指していましたが、コロナ禍で人と会う機会が激減する中で、性的指向(どんな性を好きになるか・ならないか)や性自認(自分の性をどのように認識しているか)に関する不安を抱える若者が孤立することのないよう、計画を変更して昨年秋に常設版としてオープンしたそうです。

知識豊富なスタッフが常駐しており、予約制で個人相談ができるブースも。オンライン・オフラインでのイベント開催や勉強会も行っています。もちろん、当事者やその家族でなくても、LGBTQについて学びたい人が行くのもOK。関連書籍が1800冊以上も揃っており、LGBTQに関する理解を深めるための国内外の絵本や漫画もあるので、お子さんと夏休みに訪れるのも良いかもしれません(緊急事態宣言下では感染防止のため人数と滞在時間の制限あり)。多様な性や家族の在り方について、オンラインでの絵本の読み聞かせなどのイベントも行っています。

「プライドハウス東京」は、団体・個人・企業が連帯し、2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催されるタイミングを契機と捉え、LGBTQなどのセクシュアル・マイノリティ(以下、LGBTQ)に関する情報発信を行うプロジェクトです。
「プライドハウス東京」は、日本で初めてとなる常設の大型総合LGBTQセンター『プライドハウス東京レガシー』を、国際カミングアウト・デー(National Coming Out Day)である2020年10月11日に、東京都新宿区にオープンしました。


日本ではまだLGBTQに関する知識は十分に浸透しているとは言いがたく、ときには報道が偏見や間違った知識を広めてしまうことがあります。これから五輪報道が増えますが、プライドハウス東京レガシーでは7月13日に声明を発表し、トランスジェンダーのアスリートに関する報道で差別や偏見を助長することのないよう、また個人がSNSなどで発信する際にもそうした点に留意するよう呼びかけています。今後、関連のウェビナーなども開催する予定だそうです。

「いまさら聞けないけど、あんまり詳しいことはわからない」という方は、これを機に本を読むと良いかもしれません。『LGBTとハラスメント』(神谷悠一・松岡宗嗣著 集英社新書)は、“知らなかった”と“知ってるつもり”が“知って良かった”に変わるおすすめの一冊です。LGBTQの基礎知識がコンパクトにまとまっており、悪気なくやってしまいがちな行動の事例が載っています。『みんな自分らしくいるためのはじめてのLGBT』(遠藤まめた著 ちくまプリマー新書)は高校生向けの本で、平易な文章と自分ごとに惹きつけて考えやすい構成なので、大人の入門書としてもおすすめです。この2冊を読んでから東京オリパラとLGBTQについての様々な記事を読むと、より理解が深まるでしょう。

オリパラ開催中は、家族と一緒にテレビで観戦する機会が増えると思います。実況でトランスジェンダーの選手について触れた際などに、お子さんに質問されることもあるかもしれません。翌日、職場などで話題になることもありそうです。そんなときに、無自覚に差別や偏見を助長しないようにしたいですね。
 


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