ソーシャルライター・松本愛さんが、DV被害にあった当事者の「声」を丹念に拾い上げ、DVの裏側にある日本のジェンダー意識の遅れと、法制度とその運用の問題点、それ故の救いのなさをレポートしていく『DVアリ地獄』20回です。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


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機械的に処理される間接強制金


その日、面会交流から帰宅したEさんの上の子どもは怒り狂っていました。

Eさんの上の子は中学校1年生。小学生のときに両親が離婚してからずっと続けてきた月に一度の休日を使った朝から晩までの父親との面会交流。しかし、中学に入ってから、その月に一度を捻出することさえ難しくなってきたため、今回、直接父親にそのことを相談したのです。

「塾や部活が忙しく、月一であっても休日を丸一日面会交流にあてるのが大変。会う頻度を下げるか、時間を短くして欲しい」と。

すると父親はあろうことかその忙しさに理解を示してはくれませんでした。それどころか「お父さんの顔を大人になった時に覚えておいた方がいいぞ」と我が子に向かって言い放ったというのです。

これまで父親だからと精一杯尽くしてきた気持ちはプッツリ切れ、あまりの言い草に怒り心頭、これまで不満に思っていた気持ちも抑え切れなくなり、そしてEさんの子は「もう面会交流には行かない」と母親に宣言しました。

 

そもそもEさんの離婚原因は夫からのモラハラとDV。

産後すぐ、床上げ前のEさんに「いつまで寝ているんだ」と怒るところから始まったそれは、醤油やみりんなど調味料の減りが早すぎるといういちゃもんであったり、機嫌の悪さをアピールするためのこれみよがしのため息であったり、部屋のドアを力一杯閉めることであったり、職場の忘年会に参加中のEさんに対して執拗に電話をかけて携帯越しにさえ店中に響き渡る大声で怒鳴りつけるなど、様々な形で行われました。

その嫌がらせはEさんに対してだけでなく子どもたち、特に下の子への教育虐待という形で発揮されました。当時はそれが虐待であることに気付いていなかったというEさんですが、小学校受験をする子どもに対して、父が課したノルマのプリントが終わるまで寝かせないなどの行為を行なっていたのです。

Eさんの子どもは当然それを覚えていました。一緒に住んでいたとき父親が母親に意地悪をしていたこと。目の前で繰り広げられた間接的な暴力。当然、母子とも最初から面会交流には前向きではありませんでした。しかし、離婚時、年齢が幼すぎたため、子どもの気持ちは裁判所に汲んでは貰えず、試行面会と調査官調査を経て、付き添いなしの直接面会が決まってしまっていたのです。

 
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