ソーシャルライター・松本愛さんが、DV被害にあった当事者の「声」を丹念に拾い上げ、DVの裏側にある日本のジェンダー意識の遅れと、法制度とその運用の問題点、それ故の救いのなさをレポートしていく『DVアリ地獄』19回です。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


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住所バレして実家に帰れない=一人で子育てするしかない、ということ


夫がサービスとしてDさんに施してくれるのは罰ゲームのような激痛足ツボマッサージ。あまりの痛さに我慢ができず、その日は思わず彼を押しのけ怒らせてしまったDさん。

激怒した夫は、Dさんの顔面をおもむろに殴りつけました。殴られながらも子どもを連れて家から逃げ出そうと、上の階にいる子どものところへ向かおうとする彼女に馬乗りになり、さらに首を絞めたうえ、口を塞いでまで執拗に窒息させようとしてくる夫。

それまでも何度も殴られてきたものの、夫が常に家にいる状況では、隙を見つけてはこっそりDV支援センターに相談の電話をかけるのが精一杯。それ以上の助けを求めることはできていませんでした。しかし、この状況でやっと「このままでは本当に殺されてしまう」と目が覚めたDさん。

その日は流石に恐怖で何もできなかったといいますが、それから数日のうちに夫のいない隙を狙って自分と子どもの荷物を最低限まとめて車に積み込み、実家に逃げ帰ることに成功しました。

支援センターにその旨を報告すると、センターは警察に相談履歴を共有してくれました。避難した先の警察に連絡すると「実家にいると夫が押し掛けてくる」と指導があったため、当日は両親とともに近くのホテルへ身を隠すことになりました。(案の定、その夜、夫は実家を訪ねてきたのでした)。

翌朝、ホテルから警察に行き、もしもに備えた警察官に付き添われ実家に帰ったDさんですが、警察から改めて「実家にいるのは危険」と警告を受けたこともあり、実家に生活拠点を移すことは断念。それからしばらくはビジネスホテルを泊まり歩き、最終的に家を借りて子どもと二人の生活を始めることを余儀なくされたのでした。

 

その間、Dさんの夫がどうしていたか。

彼女は一度だけ直接夫に「離婚したい」とメールを送りました。

そのため「そんなに思い詰めているなんて知らなかった、戻ってきてくれ」といった内容のメールをDさんに対して何度も大量に送り続けていたのです。

絞め殺そうとしておいて「そんなに思い詰めているとは知らなかった」!!

よくもまあ、そんなことがメールできたものです。

 
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