33歳で医学の道を目指し、55歳で作家デビュー


南さんは大学卒業後に出版社で働き、長女を出産後は一念発起して医学部を目指し、33歳で医学部に学士編入します。また、夫と通い始めた小説教室がきっかけで小説を書き始め、55歳で作家デビューを果たします。

 

「日本は一つの会社で長く働き続けるなど、一つのことをやりとげるのが美しいという価値観があるような気がします。私は編集者や主婦、学生と一つのことをやりとげていない感じがあるんですけど……。でも、ここがだめなら別のところで働くなど、合わなければ変えてもいいし、いろんな生き方があっていいと思うんです」

 

やりたいことを先送りにしていたら「もういいか」になる


南さん曰く、今やりたい気持ちがあるのなら、「時間ができてから」「年を取って落ち着いたら」なんて考えない方が絶対にいい! とのこと。

「○○したい、という気持ちは長続きしなくて、もういいか、になりますから。したいと思うことがあったら即実行。今さらやってもと自分から道を狭めるんじゃなくて、だめなら逃げてもいいくらいの気持ちで。そう思うことで逆に歯をくいしばれることだってあります。私もそんな感じでやってきました。今は小説と医療のお互いが補い合っているような感じで、文章で丹念に書くことで気づくことがあるし、患者さんにすごくいい言葉をもらった時は、私一人で持っておくのはもったいないから、多くの人に伝えたいと思ったりするんです」

「頑張る人みんなへの応援歌です!」という思いでこの物語を執筆したという南さん。追い詰められた素野子の行き着く先はぜひ本作で見届けて。その結末から、人生は決して悪いことばかりではなく、前を向いて踏み出す力をもらえるはずです。

 
 

南杏子
1961年、徳島県生まれ。日本女子大学卒業。出版社勤務を経て、33歳の時に東海大学医学部に学士編入。その後、慶応大学病院老年内科などで勤務。2016年に『サイレント・ブレス』で作家デビュー。『ディア・ペイシェント』や『いのちの停車場』などで連続ドラマや映画などの映像化が相次いでいる。

 

<新刊紹介>
『ヴァイタル・サイン』

南杏子 小学館

二子玉川グレース病院で看護師として働く堤素野子は、31歳になり今後のキャリアについても悩みながら忙しい日々を過ごしていた。患者に感謝されるより罵られることの方が多い職場で、休日も気が休まらない過酷なシフトをこなすが、整形外科医である恋人・翔平と束の間の時間をともにすることでどうにかやり過ごしていた。
あるとき素野子は休憩室のPCで、看護師と思われる「天使ダカラ」という名のツイッターアカウントを見つける。そこにはプロとして決して口にしてはならないはずの、看護師たちの本音が赤裸々に投稿されていて……。心身ともに追い詰められていく看護師たちが、行き着いた果ての景色とは。
映画「いのちの停車場」やNHK連続ドラマ「ディア・ペイシェント」など、数々の話題作を送り出してきた、現役医師でもある著者の最新作!終末期の患者が多く入院する病棟で働く女性看護師の目を通して、医療現場の現実や限界をリアルに描いたエンタメ長編!
患者さんに、最期まで笑顔でいてほしいから--

撮影/山本倫子
取材・文/吉川明子
構成/川端里恵

 
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