こんにちは。医療ライターの熊本美加です。
みなさんは、生理用品を買うのが恥ずかしいと感じたことはありませんか? 私は購入した生理用品を男性の店員さんがレジで個別に紙袋に包んでくれるのを待つ間は、なんとも言えない気持ちになります……。しっかりとした性教育を受けこなかった世代だからかもしれません。しかし最近では、生理については随分とオープンに語られるようになってきています。
今回は、女の子の「初経=はじめての月経」と「男の子の精通=はじめての射精」について、現在の小学校ではどのように教えているのかを知りたい! と、保健師として長年性教育に取り組んでいる渡會睦子先生(東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授)に、話を伺いました。
渡會先生は、全国の小・中・高校、さらに養護施設・教育委員会等を訪れ、子どもたちの性やこころの問題を扱った授業や講演を、のべ2000回以上行っている人物。教材には文部科学省の学習指導要領に基づき自ら制作した、性・からだ・こころについてのスライドを使用しています。2020年の学習指導要領の改訂に合わせ「人生を豊かに育む教育」にスライドの内容をアップデートし、社会の変化を見据えた教育を実践中です。
初経と精通は体の成長。自然でうれしいこと
最近の性教育に対しての世間の動きについて渡會先生に伺ってみました。
「月経について恥ずかしがらずに話そう、という気運が高まってきているのは、とてもよいことです。しかし、以前から思春期のからだが成長する『第二次性徴』で、女の子の初経・月経は教えられる機会はあったのに対し、男の子の精通・射精は、教えられないことが多いように感じます。性教育においても男女平等は大切なので、ぜひ男の子にも成長によるうれしい変化として、精通について教えてほしいと思います」
今の小学生の保健体育の教科書には、初経や精通についてしっかりと書かれています。しかし、教えにくさを感じるのは、やはり私たち大人が性教育をちゃんと受ける機会がなかったことが影響していると渡會先生。
「ご家庭で親御さんが教えることができるようになればいいのですが、実際は難しいでしょう。そのようななかでも、親御さんができるのは、月経や射精をネガティブに表現しないことです。学校でも家庭でも、初経や精通を、体が成長してきたよろこびとして伝えると、子どもたちは安心します。一番身近にいる大人の伝え方ひとつで、ポジティブなイメージに変えることができるのです」
たとえ、無意識であっても月経や射精に対して、「わずらわしい」「恥ずかしい」といった否定的な言葉を使うと、子どもはそのまま素直に受け止めてしまいます。
性について伝える前に大切なのは?
渡會先生は、からだの成長で訪れる第二次性徴としての初経や精通の話を伝える前に、小学校3年生以下に対して、自分を大切にする力や周りの人を大切に思う気持ちを養っていく授業を行っています。
「脳の成長、特に前頭葉の成長に伴い、小学3年生くらいではじめて自分と他の人の違いを認識し、周りの人と自分を比べられるようになります。同時に、劣等感を持ちやすくなるので、その前に、自分の個性を長所に感じ、ありのままの自分でいいと思える気持ち、いわゆる『自己肯定感』を積み上げることがとても大切です。
小学校の授業では、幼い頃からのアルバムや、お家の人や身近な人から成長を喜ばれたエピソードを持ってきてもらい、それを見ながら『みんな大切な人だね』といった話をすることが多いです」
家庭では子どもの自己肯定感を培うために、具体的に意識することはあるのでしょうか?
「日頃から『大切なあなたが、成長して大人に近づいていくのがうれしいな』『あなたの個性って素敵だな』と伝えていきましょう。どんなに忙しくても、ぎゅっと抱きしめたり、頭を撫でたりする時間を少しでもとり、お子さんを大切に思う気持ちを表現してくださいね。それだけで、子どもたちは学校で劣等感を味わったときでも、『このままの自分でも、親は愛してくれるんだ』と自己肯定感を上げていくことができます。自分の存在を大切に思う気持ちを育て、次のステップで初経と精通をうれしい成長として教えていきます」
自己肯定感を上げ、成長によるこころやからだの変化はうれしいことなんだと理解することで、子どもたちは第二次性徴期の初経や精通を自然にすっと受け止めていけると渡會先生は言います。
女の子と男の子と一緒に教える
渡會先生は小学生の女の子と男の子を一緒の授業で初経と精通について教えています。からだの仕組みや、男と子と女の子の違いなどを聞いた子どもたちからは、「初経や精通は成長していくと、普通にあるんだとわかった」、「女の子は月経の時に痛いことがあるんだね。だったら、優しくしてあげよう」などの、ポジティブな感想がどんどん出てくるそうです。
「私は性教育の時には、女の子が月経の時に下着が汚れた場合と同じように、男の子へも夢精をした場合は、『自分でパンツを洗ってから洗濯機に入れようね』と教えています。
以前、授業参観日で親御さんの見守るなか、『あなたは大切な子よ』と伝えながら、初経・精通を経験する前の子どもたちと、第二次性徴について一緒に考え、『パンツに月経の血液、精通の精液が付いたら、どうしようか』という話を家族としようというプログラムを行いました。そのなかで、『おねしょをした時と同じように、さっと洗って、洗濯機にいれておこう』といったラフな感じでお母さんとお約束をしていたのは、とても自然に成長を楽しんでいる様子で、素敵だなあと印象深く思いました」
隠すのではなくオープンに話をすると、子どもは不安や悩みを抱えることなく、対応できるようになります。
ベテランの保健の先生に聞いた!おすすめの小学生向け保健教材
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