子どもの体と脳の成長のバランスを見ながら教えていく


文部科学省は脳の構造やからだの発育に合わせて、初経・精通の教育のスタートを小学3・4年に設定していますが、家庭では子どものからだの発育に合わせて時期を見ていいそうです。

「小学生の子どもの成長は個人差が大きいので、初経や精通が身近ではないときに話をしてもピンとこない場合があります。初経も小学校4年生あたりでくる子もいれば、中学生になってからの子もいるため、学校ではくりかえし教えていきます。授業のほかに、養護の先生が個別に対応することもあります。
お家ではタイミングを見て、必要なときに教えてください。親御さんがお子さんに教えたいと思ったら、参考にしてほしいのは小学3~6年生の保健体育の教科書です。医学的にからだの成長や初経・精通からこころの成長についてまで、驚くほど丁寧に記述されています。
しかし、教科書に記述はあっても、学校では性教育全般に『教科書を読んでおいて』で済ましてしまうと聞くことがあります。ご家庭では、男の子の精通を、お父さんに教えてほしいと思いますが、やはりお父さんが性教育を受けた経験が少ないため、『自然に覚えるだろ?』と考える傾向があります。そのためでしょうか、はじめて夢精をした時に、びっくりしたり、怒られると思って隠さなければ……と、ネガティブな気持ちになってコンビニのゴミ箱にパンツを捨ててしまう男の子もいました。男の子も女の子も、成長を喜びながら学ぶことは大切なことですね」

ちなみに月経で流れる血は、生理用品のCMのような青ではなく、赤い血と栄養が混ざっていて、あざやかな赤から暗い赤のときまであると教えるそうです。渡會先生も大学生から「自分の生理は青じゃない」という相談を受けることがあったと言います。

思春期を迎える中学生からは、こころとからだに大きな変化が訪れるので、性教育も基本を繰り返しながら、より具体的な内容になっていきます。

「初潮と精通、小学生にどう教えるべき?」保健のベテラン先生に聞いてみた_img5

第二次性徴とは、からだが大人に向かって変化すること。思春期とは第二次性徴といっしょに精神的(こころや考え方)にも大きな変化が出てくる時期のこと
 


自己肯定感を高めることは、性トラブルから子どもを守る


「親などに無条件でかわいがってもらった経験が少ないと、自己肯定感が低くなる傾向があり、思春期になると、なかには性を代償に、かわいいと言ってもらおうと動いてしまう女の子もいます。SNS、出会い系サイト、DV、性被害者、加害者、人工妊娠中絶、性感染症など、性のトラブルに巻き込まれる機会を作ってしまうことも。性のさまざまな問題から子どもを守るためには、前述した通りありのままの自分を大切に思う自己肯定感を、子どもの頃から高めていくことがとても重要です」

最近の自己肯定感が低い子どもたちを取り巻く環境には「忙しさ」も関連しているのではないかと渡會先生は推測します。

「お子さんは小さい頃から塾や習い事で忙しくて、また貧困なども関連し、親御さんもゆっくりとお子さんと一緒に過ごす時間がとれない場合も増えています。外で嫌なことがあっても、親が『あなたのことが大好き』と抱きしめて、頭を撫でる。それだけでありのままの自分で大丈夫という自己肯定感が身についてきます。『ご飯食べたの?』『塾に行ったの?』だけでなく、少しでも愛情を伝える時間を設けると、子どもたちは何かトラブルになりそうなことに踏み込もうとしたときに、『あの人が心配するから』と立ち止まって考えることができます」

なかなか一緒の時間がとれないまま思春期を過ぎてしまった子どもに対して、今からできることはあるのでしょうか?

「今まで抱きしめてなかった子を、急に思春期になって抱きしめても気持ち悪がられてしまうことが多いでしょう(苦笑)。でも、思春期になって、『まずいなーっ』と思ったのであれば、遅くはありません。今日から温かい愛情を言葉で表してください。『うるせえ』とお子さんに言われても、あなたをずっと大事に思っていると伝えて続けてみましょう。誰かに承認されたいという気持ちから、援助交際や簡単に性行為に踏み込む子どもたちもいます。『あなたは大事』とずっと言われていた子なら『かわいいねぇ。遊ぼうよ』と知らない人に誘われても『だからなぁに??』と、断れます。親はトラブル回避のストッパーになれるはずです」

親でなくても、親戚、友人、ご近所さん、身近な大人などが、いろいろなコミュニケーションで子どもへ愛情を伝えることが、今の世の中には欠けてしまっているのかもしれません。
 

子どもの自己肯定感を下げないために、気をつけること


「親の喧嘩や罵声を浴びせあっているシーンを見てきたことによって、『自分は生まれてこないほうが良かったのかな?』と悩んでいる子どもたちもいます。両親が互いを思い合っている言葉を聞いているお子さんは、将来、言葉で愛情表現ができる人を選んでいるようです。シングルで一生懸命に子育てをされている方も多いでしょう。言葉を交わす大切さをお子さんにぜひお教えいただければと思います。きっとお子さんに十分に伝わっていくでしょう。その積み重ねが、さまざまな性の問題から子どもたちを守ることにつながっていきます」

子どもはもちろん自分の周りの人に愛情を伝えることの大事さは、忙しい日々で忘れがちです。心を豊かに育んでいくためには、人と人のつながりが必要。コロナ禍の今、人とつながり、支え合うことは、こころの健康には欠かせません。性教育と身構えずに、大人が子どもたちと向き合い、意識して言葉や態度で愛情を示すことが、子どもたちの性の健康を守る一助になっていくに違いありません。

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渡會 睦子(わたらい むつこ)
東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授
地域看護学・感染看護学 博士(健康科学) / 修士(看護学)/保健師 / 看護師 / 衛生管理者/公衆衛生学会認定専門家(日本公衆衛生学会) / 日本性感染症学会認定士(日本性感染症学会) /思春期学研究認定者・性教育認定講師(日本思春期学会)/Therapist (日本性科学学会) / 性の健康カウンセラー (性の健康医学財団)
【履歴】山形県を中心に保健師として性教育に取り組み、教育委員会と学校の先生方が性教育を円滑に行うことができるよう教材や仕組みをつくり、「20歳未満女性の人工妊娠中絶率」が、平成10年山形県は全国ワースト3位であったが平成22年には全国45位まで低下させることに成功。現在は、住民とともに活動する保健師の会を結成し、性教育を幅広く行っている。
著書『【パワーポイントスライド教材】人生を豊かに育む教育(小学生向け)』
(東京:日本家族計画協会)

 


監修/渡會睦子
取材・文/熊本美加 

 

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