人気の無い裏路地で、なかなか気の利いた落書きを見付けた。「愛を失った後でも尚、また人を愛したくなる」

夏のバカンス中に、素敵な初老の紳士に出逢った。キューバンサルサ・カシーノと葉巻をこよなく愛する彼は、飄々としていて実に洒脱だ。いい人生を送って来た人なのだろうと、顔を見て直ぐに分かった。

同じ曜日の同じ時間。約束をしなくても、その馴染みのバーに行けば、同じ席に座っている。彼に会いに行くのが、毎週末の楽しみになった。

二か月間の期限付き滞在。所詮他所者の私は、そこに居る人達のバックグラウンドを知らないし、知らなくても良い。此処では、肩書きや経歴は意味を成さない。フィーリングが全てだ。人間関係の、心地い良い距離感に、妙な安心感を覚えた。

休暇中の開放感も手伝ってか、私は随分と饒舌になった。人生観や人間愛、サルサについて、深夜まで語り合う。人生の先輩の言葉には重みがあり、私もあんな風に、素敵に歳を重ねたいな、と思った。

いつか君をハバナに連れて行ってあげる。家族付き合いの、カシーノの師匠が居るんだ。僕がまだ生きているうちに――。

美しいパリ市庁舎前広場。2024年のパリ五輪に向けて、キックオフ宣言!

パリに戻る日が近づいて来て、今夜が最後だと告げると、何やら封筒を渡される。あら、ラブレターかしら。ドキドキしながら開けると、『紀元前820年のギリシャにおける愛の種類』と題するリストが入っていた。

そこには七種の愛の定義が、ラテン語でシンプルに説明されている。読むと、どの愛も懐かしく、知っているような気がした。

過去に愛した人たちの顔が脳裏に浮かび、心がほんわりと暖かくなる。嗚呼、どうか、今はもう一緒に居ない君たちが、幸せでありますように――。

【古代ギリシャ 愛の形 紀元前820〜170】
エロス(EROS):大切な相手に対する、情熱的で、性的で、エネルギーみなぎる愛。プラトンによると、肉体的な愛から始まり、浄化されながら、神へ向かう愛。

マニア(MANIA):依存的な愛。脅迫観念的、嫉妬、苛立ち、独占欲。関係を維持する為には、狂った事までする。

ルーダス(LUDAS):素敵な愛。パートナー無しでは生きていけない。気軽で縛られることの無い戯れの愛。人をより熱心に幸せにする。

ストルゲ(STORGE):家族愛。親子関係、強い絆。兄弟愛的な、友人に対するような愛。

アガペ(AGAPE):無償の愛。精神的愛。優しく、寛大で、従順で与える一方の利他的愛。ストルゲより個人を超えて全ての人に対する普遍的な愛。

プラグマ(PRAGMA):永遠の愛。エロスの反対、成熟した愛。長く続く妥協も含めての愛。適合性と常識に基づいた実用的な愛。

フィラウティア(PHILAUTIA):自己愛。自分を愛することが、他者を愛する鍵である。利己愛とは違う。

なーんだ、なんだ。紀元前から、愛の本質って、まるで変わっていないんだね。