Aβ減少=認知機能に有効、とはいえない
しかし、この結果を受けてもなお、Aβへの追究は止まりませんでした。なぜなら、この薬剤はAβの合成を止めただけでなく、神経の細胞にとって重要な他のタンパク質の合成まで止めた可能性が指摘されたからです。
それならばAβだけを減らせればと、ソラネズマブと呼ばれるAβに対する「抗体」製剤の開発が進みました。「抗体」とは、体の中で細菌やウイルスなどの特定の外敵を記憶して攻撃するための特殊部隊のようなものです。
例えば、新型コロナウイルスに一度感染すると、体の中で新型コロナウイルスに対する「抗体」が作られ、保存されます。これにより、次に新型コロナウイルスに感染した際には、すぐに新型コロナウイルスに対する抗体という特殊部隊が出陣して、ウイルスをあっという間にやっつけてしまうのです。
このメカニズムを模倣して、Aβに対する抗体というのを人工的に作ることができます。これをアルツハイマー型認知症患者に投与することで、Aβを攻撃し、減らすことができるのではないかというわけです。
実際、ソラネズマブの投与により、マウスモデルのみならず、人でもAβを減らせることが確認できました(参考文献4)。
しかし、この抗体製剤の研究では、Aβを減らすことには成功したものの、肝心の認知機能に関しては、残念ながら十分に有効とする結果は得られなかったのです(参考文献5)。
前回記事「認知機能を改善する可能性が。地中海式ダイエットの研究に期待!」はこちら>>
参考文献
1 Querfurth HW, LaFerla FM. Alzheimer’s Disease. N Engl J Med 2010; 362: 329–44.
2 Evin G, Hince C. BACE1 as a Therapeutic Target in Alzheimer’s Disease: Rationale and Current Status. Drugs Aging 2013; 30: 755–64.
3 Knopman DS. Lowering of Amyloid-Beta by β-Secretase Inhibitors — Some Informative Failures. N Engl J Med 2019; 380: 1476–8.
4 Murphy MP. Amyloid-Beta Solubility in the Treatment of Alzheimer’s Disease. N Engl J Med 2018; 378: 391–2.
5 Honig LS, Vellas B, Woodward M, et al. Trial of Solanezumab for Mild Dementia Due to Alzheimer’s Disease. N Engl J Med 2018; 378: 321–30.
写真/shutterstock
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