SNSを駆使し、場所にも肩書きにもとらわれない新しい働き方のパイオニアとしてメディアの注目を集めていた作家でコメンテーター安藤美冬さん。最新刊『つながらない練習』ではすべてのSNSを退会した実体験を紹介し、話題を呼んでいます。一方、講談社で『宇宙兄弟』『働きマン』などの大ヒット漫画を編集者として手がけながら、独立。日本初の作家エージェント、コルクを立ち上げたコルク代表取締役の佐渡島庸平さん。価値観が大きく変化していく今の世の中を二人はどう「観察」しているのかーー?

 
 

「観察力を高めるには?「思い込み」の外し方【佐渡島庸平×安藤美冬】」>>


ヒット作を作りたい! と思わなくなった


安藤美冬さん(以下、安藤):佐渡島さんの新刊『観察力の鍛え方』で、コミュニケーション論の研究者の若新雄純(わかしんゆうじゅん)さんから「絶対」の反対は「あいまい」と教わったとありました。詳しくはぜひ本を見ていただきたいんですけど、この世界は、価値観がわかりやすい資本主義的な世界から、もっとあいまいな世界へ移っていくのではないかという話です。

佐渡島庸平さん(以下、佐渡島):これまでの資本主義社会は、大量に作って消費する社会で、絶対的なスタンダードとなる商品をどう作るのかが目標でした。漫画もみんなが知っている作品を作ることが良いことだった。

スタンダードを作る、というわかりやすいゴールに向かってどう効率的に進んでいくかという状態で多様さを認めていなかった。昔は大量の情報を処理できなかったので、物理的にも多様性に対応できなかったんだと思います。

でもインターネットやAI、ロボットの力を借りれば、僕らが本来持っている多様性を否定せずに生きていける時代が来ようとしている。「多様性」という価値観のなかでは、ゴールはひとつじゃなくて、むしろゴールなんてない。一人一人違う人間で、見ている世界は全部違う。その違いの良さを生かしていくことが、より多様さを認めるようになっていく。

安藤:今までは、世界中の人たちが共有する、例えばユニクロやApple製品のような大きなビジネス、マーケットに価値があった。そこから多様性が大切にされると、例えば職人の手仕事のようなものがより大切にされる。「上場が一つの大きなステップ」という企業の価値観も変わっていくでしょうね。

佐渡島:多様性が本当の意味で認められると、クラウドファウンディングのCAMPFIREが実現しているような「小さな経済圏」が生まれていって、何かをするときに覚悟よりも楽しみながら変化していける社会が来るんじゃないかなと思う。

僕自身も、以前は「ヒットを作るぞ! 有名になるぞ!」と考えていたのが、「自分が満足できる作品を作って、楽しんでくれるファンの人たちと経済圏を作って長期的に創作ができるようになろう」と変わってきています。