言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
 
そこにはきっと、彼女たちの「守りたいもの」がかくれているのだ。
 
これは、それぞれが抱いてきた秘密と、その解放の物語。

これまでの話旅の専門出版社で編集長として働く弘美(43)は、仕事・仲間・おひとりさまライフにとても満足している。しかしその平穏は、17年前最愛の夫・彬との死別を乗り越えて手に入れたものだった。そんなある日、彬と弘美の大学時代の親友・哲也と久しぶりに会う。「もう誰とも付き合うつもりはないの?」と訊かれ、動揺する弘美は……?
 


「優しい嘘をひとつだけ」連載一覧はこちら>>
 

彼は亡き夫の親友。でも今は...?夫を忘れられない妻が17年間断ち切れない記憶_img0
 

第9話 出版社勤務・弘美(43)の話【後編1】


「ロミ編集長、今日元気ないっすね? 腹でも壊したんですか? 全然食べてないですよ」

編集部の仲間のツッコミに、弘美ははっとして顔をあげた。ようやく入稿して一息ついたので、月曜だが何か食べて帰るかという話になり、編集部5人そろって居酒屋に寄っていた。

「あ、うんごめん平気! 寝不足かな、ちょっとぼーっとして」

「なんですか~恋の悩みとか? このメンバーで恋バナしたことないから、編集長たまには先陣切ってくださいよ」

弘美はアラフォー男子たちが期待を込めたキラキラした目でこちらを見るので、思わず力が抜けて笑ってしまった。

「恋か、そんなんじゃないなあ。もうちょっとシリアスな感じ。カッとなって古い友人と気まずくなった」

部下と言っても4人は同世代。「彼」と同じくらいの男子ならば、何かアドバイスをくれるかもしれない。

すると4人はピタリと動きを止め、目を見開いて叫んだ。

「それこそ恋! 恋の悩みですよロミさん!!」