言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
そこにはきっと、彼女たちの「守りたいもの」がかくれているのだ。
これは、それぞれが抱いてきた秘密と、その解放の物語。
第9話 出版社勤務・弘美(43)の話【後編1】
「ロミ編集長、今日元気ないっすね? 腹でも壊したんですか? 全然食べてないですよ」
編集部の仲間のツッコミに、弘美ははっとして顔をあげた。ようやく入稿して一息ついたので、月曜だが何か食べて帰るかという話になり、編集部5人そろって居酒屋に寄っていた。
「あ、うんごめん平気! 寝不足かな、ちょっとぼーっとして」
「なんですか~恋の悩みとか? このメンバーで恋バナしたことないから、編集長たまには先陣切ってくださいよ」
弘美はアラフォー男子たちが期待を込めたキラキラした目でこちらを見るので、思わず力が抜けて笑ってしまった。
「恋か、そんなんじゃないなあ。もうちょっとシリアスな感じ。カッとなって古い友人と気まずくなった」
部下と言っても4人は同世代。「彼」と同じくらいの男子ならば、何かアドバイスをくれるかもしれない。
すると4人はピタリと動きを止め、目を見開いて叫んだ。
「それこそ恋! 恋の悩みですよロミさん!!」
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