言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
そこにはきっと、彼女たちの「守りたいもの」がかくれているのだ。
これは、それぞれが抱いてきた秘密と、その解放の物語。
第10話 出版社勤務・弘美(43)の話【後編2】
「哲也、お待たせしてごめんね」
弘美は、スペインバルのカウンターに座る哲也に、努めて明るく声をかけた。
結局、改めて話したいことがあるという哲也のメッセージに応じて、弘美は今夜指定の店にやってきた。
本当は仕事を18時には切り上げることもできたが、19時以降なら、と言い、実際には19時15分にやって来た。
長く話せば話すほど、都合の悪いことが起こりそうな気がしていた。
「弘美、この前はほんとにごめん。突然、とても失礼な言い方をしてしまった。弘美と解散して、また来年まで会えないと思ったら、一人で変なふうに思い詰めてしまった」
「もういいってば。男っ気のない私が友達として心配だったんでしょ? こちらこそ、いつまで経っても手がかかってごめんね」
弘美が笑い話にしたつもりで乾杯を促したが、哲也はそれにさえ注意を払わない。
そして意を決したように、弘美を見た。
「そうじゃない。弘美が好きなんだ」
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