『逃げるは恥だが役に立つ』、『私の家政夫ナギサさん』を生んだTBSの火曜ドラマ枠が、再び挑戦をしてきている印象があります。

『婚姻届に判を捺しただけですが』火曜夜10時〜TBS系列放映(ドラマ公式サイトより)


関係性を続けていくために
①話し合う ②妥協点を見つける ③相手を受け入れる


今期放送されているのは、清野菜名と坂口健太郎による『婚姻届けに判を捺しただけですが』。今や14.1%にもなった日本の女性の生涯未婚率(2019年 国立社会保障・人口問題研究所調べ)。主人公の大加戸明葉は一人大好きで結婚願望がなく、当然その14.1%に入る気満々で日々仕事に打ち込んでいた女性。しかし最愛の祖母の店を守るため、仕事で知り合った百瀬柊にお金を貸してもらう代わりに偽装結婚することを承諾。実は百瀬は兄の妻にずっと想いを寄せており、その想いを貫くために形だけの結婚を望んでいたのでした。

そんな一人大好き女性と、恋心をこじらせ人と心を通わせることを拒否している男性の結婚生活。当然、次々と小さなことで衝突するのですが、2人はお互いの利益のためにこの結婚を続けていく必要がある。仕方なくですがその都度話し合い、妥協点を探し、少しずつ相手の存在を受け入れていくのです。

もちろんこの過程でお互いに恋心が芽生え始め、『逃げ恥』や『ナギサさん』のようにムズキュンが巻き起こってくると思われます。最大の見どころはそこになるのでしょうが、このTBSの火曜ドラマ枠というのは、恋模様に加えて、男女平等問題など社会派なメッセージを上手にエンタメに落とし込んで描いてくる手腕でも知られています。そういう意味で言うと、私が今回の『判捺し』でもっとも気になったのは、“人と一緒に暮らすこととは?”というテーマを丁寧に描いてきている印象を受けた点でした。

 


一人の気楽さには
いつか飽きがくる?


なぜならかく言う私も生涯未婚率14.1%の1人。明葉同様一人が大好きで、結婚願望ゼロではなかったものの、選んで独身の道を歩いてきた人間だからです。が、これは長年一人を堪能して気づいたことですが……、一人の気楽さも長くなると飽きるのです。

わたくし事ですが、私は「趣味は甥と遊ぶこと」と公言しているほど2人の甥っ子が大好きです。私の姉はアメリカで結婚して子育てをしながら働いているのですが、私はコロナウイルスが流行する以前は年に2回アメリカを訪れ、1週間ほどがっつり甥っ子たちのシッターをしていました。それこそおむつ変えから食事、歯磨き、寝かせつけと、朝から晩まで完全に付きっ切り。子供たちが学校に通い始めてからは、朝は私が起きて朝食を用意し、学校まで連れて行き、帰りも迎えに行く。その間姉は、朝ゆっくり寝ているのはもちろん、昼間も「自分の時間を持てるチャンス」とばかりに研究室にこもって(一応、あちらの大学で社会学者として勤務しています)出て来もしません。

このことを人に話すと、「そんなに甥っ子の世話をして偉いね」とか「ええー! 全部!?」と驚かれたりします。そして「できた妹だ」と褒められたり、時には「そんなに世話させられて大変だね」などと同情されたりもします。でも違うのです、私はそれをやらせてほしいのです。人のために時間を使いたいのです。いえ、もっと言えば、人に煩わされたい。もう、自分のためだけに時間を使うことにすっかり飽きてしまったから……。


人と暮らすことの
面倒くささとかけがえのなさ


そんな私には、明葉が強制的に人に煩わされざるを得なくなった環境が、少しうらやましくも感じられました。たしかに、一人だったらしなくていい苦労は多い。毎朝百瀬の目覚ましの音で起こされるのを防ぐために、自分が百瀬を起こすという労力を割かされたり、ミスをしたらきつ~い言葉をぶつけられたり。それで疲れたり、モヤモヤしたりして失った時間も、きっと一人なら有意義に使えていたことでしょう。だけど2人はいつも、反省して謝ったり、妥協点を提案したりして、何とか乗り越えていきます。時間は失ったかもしれないけど、それを補って余りある何かを得ている気が……。ああ、人と暮らすのってこういうことなんだろうなあ、と私には妙に胸に沁みたのでした。

 
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