ーー井上さんは大学3年でホリプロタレントスカウトキャラバンに合格し、芸能界に入りました。経験のない会社員役を演じる上で参考にした人はいましたか?

「一般企業で働いている友達に話を聞いたら、『え、新入社員の役なんでしょ? 新入社員のとき、俺、何もわかんなかったよ。今、何もわかんないんでしょ? だったらそのままでいいんじゃない?』と言われたんです。それで思わず『なんかしっくりきた!ありがとう』って(笑)」

ーーご友人の導きが素晴らしい!

「ありがたいことに、尚人のシーンは物語の順番通りに撮影が進んでいったので、変に先回りして知ろうとしなくていいのかなって。なのでクランクインは、新入社員の〈僕〉と尚人が一緒にオリエンテーションをするシーンだったんですが、いろんな緊張が入り乱れて、顔がちょっとこわばってしまいました(笑)」


ーー〈僕〉と尚人は企画部を希望しますが、〈僕〉は総務部、尚人は営業部に配属されます。落胆して愚痴りながらも、チャンスを信じて真面目に勤務し、お互いを励まし合い、2人は親友になっていきます。2人の会話のリアルな空気はどのように醸し出されたのでしょうか?

「匠海君とは初めての共演なので、事前にいろいろ考えてはいたんです。どういう方なのかなとか、親友役だし自分からちょっとずつ距離を詰めていけたらいいなとか。それが、現場に入ったら自然な感じで匠海君から話しかけてくれて、好きな食べ物やゲーム、趣味など共通の話題があったので、そんな話で盛り上がったりして」

ーー自然に波長が合った〈僕〉と尚人のようですね。

「そんな感じでした。今思うと、カメラが回っているときと回っていないときのテンションが2人とも変わらなくて、ずっと『明け方の若者たち』の世界観の中に2人でいた感じでした」

 
 

この世界でやっていくと決めた時、何があってもやりきると誓った

 

ーー〈僕〉と尚人は理想と現実のギャップに打ちのめされますが、井上さんは芸能界に入ってからそのような経験をしたことはありますか?

「テレビやドラマが昔からずっと好きで、いち視聴者として見てきたので、芸能界は自分とは無縁の場所だと思っていました。だからこそ、オーディションをきっかけにこの世界でやっていくと決めたとき、めちゃくちゃきつい世界だろうから、何があっても耐えてやる! やりきってやる! と心の準備をしたんです。だから、理想と現実のギャップはなかったです。とはいえまだ4年目なので、これからいくらでも試練はあると思っています」

ーー自分とは無縁だと思っていた世界に入ると決心するにあたり、悩みましたか?

「大学3年でオーディションを受けたとき、まわりの同級生は就職活動をしていたんです。『自分だけ何をしているんだろう?』という迷いはあったんですけど、最終の一つ手前の審査のときに『これでダメだったらスパッと諦めよう。大学を卒業して、専門学校に入りなおして、中学の頃から憧れだった美容師になろう』と気持ちを決めて、本気で挑み始めたんです。ようやくそのときに『芸能の仕事をやってみたい』と覚悟が決まり、結果を残すことができたので、受賞したときにはまったく迷いはなかったです」

ーー悩んでいるときは、誰かに相談しましたか?

「いえ、一人で悩んでいました。東京での決戦大会に家族を呼んでもいいという事だったので、家族には、ファイナリストの10人に選ばれたときに初めて受けている事を言いました。「今、こういう状況なんだけど、来てもらえない?」って。リアクションは、僕には見せてない部分もあると思うんですけど、わりとあっさり「じゃあ行くよ」くらいの感じで(笑)。本心はわからないんですけど、今の所、プレッシャーをかけられることも、ネガティブな反応もないです」

ーー素敵な家族関係ですね。家族だけど相手に気を使うというか、自主性を尊重するというか。

ありがたいです。自分が親になったときをイメージすると、子供のことって心配になると思うんです。それでもあれこれ言わず、好きにやらせてくれているので、がんばりたいと思っています。