懺悔と告白
冴子:智美~お疲れ! しばらくおとなしいじゃないの、推し活は順調?
翌日、親友からのメッセージが来たとき、智美はまってましたとばかりにスマホに飛びついた。
智美:順調すぎて……どうしよう、実はもう3か月で20万円近くお金を投じてしまった……。昭ちゃんなんて、ランチ代も500円に削ってるのに、申し訳なくて絶対言えないよ。
ここぞとばかりに懺悔する。主婦の智美にとって、20万円などというお金を趣味に使うなど、考えられなかった。しかし諸々カウントすると、そのくらい投じてしまったことは間違いない。
冴子:え? 何言ってんの、私なんて高校時代から考えたら新車買えるくらいつぎ込んでるわよ! まあ、対象は移り変わってるけどね。
藍里:新車! 愛すべきアホだねえ、冴子。嫌いじゃないよ~。たしかにねえ、コンサートのために遠征してたもんね、金沢とかさ。交通費もホテル代もかかるしね。
藍里のツッコミを読んだ智美も、冴子が時々地方に遠征に行っていたことを思い出す。あれは……なんというか、なんとも無駄な行動だと思ったものだが、今なら気持ちが痛いほどわかる。
冴子:何言ってんの、藍里だって幕張メッセの握手会、行ってたじゃん! 金沢もメッセも所要時間2時間、大差ないよ。
藍里:そ、そう? 距離はだいぶ違うと思うけど……。
智美は、思い切って二人に気になっていたことを尋ねることにした。
智美:ねえ、それってさ、やっぱりファン仲間と行くんだよね? そういうのってファンクラブとかでできるの?
ドキドキしながら回答を待つと、間髪入れずに冴子から返信がくる。
冴子:や、高校生の頃はもちろんそうしてたけど。社会人になってからは「ぼっち参戦」よ! 人とスケジュール合わせてるといつまでたっても行けないからね、もう思い立ったとき、行けるタイミングで行くの。大人の特権。
ぼっち参戦。独りぼっちで地方に行くということか。映画さえ一人で行くならば行かなくていいか、となりがちな智美には想像もつかない。
藍里:けっこう新幹線や飛行機の中で、同じ境遇のひと、いっぱいいるんだよ。私もソウルのプレミアに行ったとき、周りにはイヤホン耳につっこんだ妙齢のぼっち女子がいっぱいいたよ。目が合うと、会釈したりしてね、連帯感?
智美:待って待って、ソウルのプレミア!? 海外まで行ったの? 藍里が? しかもひとりで?
いつの間に。親友と言っても、大人になってからはべったり一緒にいるわけじゃない。それぞれの生活をかんばって、数ヵ月に1度会えればいいほうだから、細かいことを知らないのは仕方がない。
それでも、智美がこの3か月に感じたような魂が飛ぶようなキラキラ気分を、藍里がとっくに楽しんでいたことが不思議に感じられた。きっとこれまでは智美にその楽しさに共感するセンサーがなくて、藍里や冴子の推し活トークをキャッチできていなかったのだろう。
智美:実は、隼人くんのバースデーライブが出身地の札幌であるらしいの。私、二人の話をきいてたら……思い切っていっちゃおうかなって思えてきた。
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