30年前は、ちょうどパソコンの本格的な普及が始まった時期にあたります。当時、パソコンに対する日本社会の一般的な反応は「パソコンで何ができるの?」といったものが多く、筆者が「ワープロソフトを入れればワープロになるし、表計算ソフトを入れれば計算が出来て、ゲームソフトを入れればゲームになるよ」と説明しても、「意味がない」「だったらワープロ専用機を買えばいいじゃない」といった意見が大半でした。
従来のツールとパソコン(IT)の最大の違いは、個人(あるいは企業)が何をしたいのかを主体的に考え、それに合わせてどのようにでも使えるという部分にあるのですが、工夫次第であらゆる目的に使える共通プラットフォームという概念そのものが、あまり受け入れられなかったのです。その結果、日本企業のIT活用レベルは先進国中最下位という状況が続いてきました。
この時、新しい概念をすぐに受け入れ、パソコンに積極的に取り組んだ人は、今となっては相当なスキルを獲得しているはずであり、逆にパソコンの意味をよく理解できなかった人は、今でもITに苦手意識を持っていることでしょう。当時を知る人間としては、今のAIの置かれている状況が、当時と瓜二つに見えます。
今後、AIの普及によってビジネス環境が大きく変わるというのは、メディアでも再三指摘されていることですが、「AIが普及したからといって機械にできることには限度がある」「人間を超えることはできない」といった感覚を持っている人は要注意です。機械にできることに限界があり、機械が人間を超えられないのは、至極、当然のことであり、あえて声高に叫ぶような話ではありません。機械に無限の期待を寄せている人など皆無といってよいでしょう。
重要なのは、機械が進歩すると仕事の一部が消滅してしまうという現実です。
限界があるとはいえ、パソコンの普及によって、これまで必要とされていた業務の多くが不要になったのは紛れもない事実であり、これからの時代はAIの普及によって、不要とみなされる業務がさらに増えることは間違いありません。AIはパソコンなど既存のITスキルの上に成り立つものですから、現時点でITスキルに不安がある人は、AIの習得ではさらに不利になる可能性が高くなります。新しい時代に対応するためには、少なくとも現状のITスキルについては不安のない状態にしておいた方がよいでしょう。
前回記事「アフターコロナに何が変わり、何が残るのか?2022年は新しい価値観に備える年に」はこちら>>
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