【広瀬アリス×井之脇海】「変な人しか出てこない」飯テロドラマが描く、恋する人々のリアル

「個性豊かな面々が、不器用ながらも一生懸命に人を思い合う姿が素敵な作品です」（井之脇さん）

ーーミキや青年のように、変わり者の登場人物を優しいまなざしでユーモラスに描くのは、大九明子監督（映画『勝手にふるえてろ』『私を食い止めて』、ドラマ「シジュウカラ」など）の真骨頂です。お二人は大九監督とのお仕事は初めてだそうですね。

広瀬：はい。『勝手にふるえてろ』や『私を食い止めて』を拝見して、恋愛した女の子がひとりで盛り上がる姿がものすごく印象的で。今回の「失恋めし」も、大九監督の世界観が爆発するだろうなと思ったので、ご一緒できるのがすごく楽しみでした。恋愛で感情が動くシーンで、長回しをしてくれたんです。すごく嬉しいのに些細なことを思い出して泣けてきちゃう、みたいな感情の動きのとき、カットを割らずに長回しで撮ってくださったんです。お芝居がしやすいようにカメラワークを考えてくださって、ありがたかったです。

井之脇：大九監督の作品は、登場人物がみんな生き生きしているんですよね。どうやったらこんな風に映るんだろうと思って現場に臨んだら、大久監督から役者への愛がすごくあったんです。ちょっとした相談事にも親身に答えてくれますし、アクシデントやハプニング、そのときに生まれた感情で何かをやっても広い受け皿で受け止めてくれました。役者に寄り添ってくれる作り方だから、キャラクターが生き生きとした作品になるんだな、大九ワールドはこうやってできているんだなと体験できました。

ーー第１話で、青年のお花屋さんに入っていったミキが、後退りしたら何かにぶつかって「あ、すみません！」と謝るやりとりもリアルでした。

井之脇：あれはたしか、段取りのときに本当にぶつかっちゃって。「それいいね」ということで、本番はわざとやったんですよね。

広瀬：始まりはハプニングでした。大九監督が付けるのは、お芝居というより動きだけ。「ここでハガキを出して、見て、喜んで、こっちに移動して、ベッドでわーってなってください。１回やってみましょうか」という感じで、そこで私がやってみたことをベースに、何かあればちょっと調整するくらい。大きく包んでくださいました。

ーーちなみにミキと青年の関係は恋に発展していくのでしょうか？

広瀬：第1話から炸裂しているミキちゃんの妄想グセによって、最終話に向けて話がどんどんおかしくなっていっちゃうんです……。

ーーまさに大九ワールドですね。フリーペーパーを出しているSTO企画の3人（村杉蝉之介、臼田あさ美、安藤ニコ）のキャラクターの濃さにも、大九監督らしさを感じました。

広瀬：そうなんです。言葉を選ばずに言うと、このドラマには変な人しか出ていません（笑）。

井之脇：（笑）。

広瀬：大九さんの世界が第１〜２話で一気に完成されるので、テンポ感もいいですし、おいしいドラマだなと思います。食べ物の良さがここまで引き出せるのかっていうくらい引き出せていますし、いろんな失恋が描かれています。ちょっと特殊な失恋が多いんですけど、女の子の恋心には共感できる部分もあると思います。女の子が恋愛すると、ちょっとしたこじらせが顔を出して面倒くさくなるところとか。

井之脇：大九監督の世界の中で、個性豊かな面々が、不器用ながらも一生懸命に人を思い合う姿が、素敵だなと思いました。僕はこのドラマで描かれる失恋に共感はできなかったんですけど（笑）、「こういう失恋もあるのか」と勉強になりました。高校時代に周りがしていた恋愛話を思い出して、あ、こういうことだったのかと理解できたり。寄り添うような、身近なところにあるドラマだと思うので、楽しんでもらえると思います。なにより、広瀬さんが本当においしそうにご飯を食べるので、それを見ているだけで幸せになれるドラマだと思います。

広瀬アリス Alice Hirose
1994年12月11日生まれ、静岡県出身。2008年に映画「死にぞこないの青」で女優デビュー。出演作にドラマ『七人の秘書』『知ってるワイフ』、映画『地獄の花園』『サイレント・トーキョー』『AI崩壊』など。レギュラー出演した大人気医療ドラマの映画化『劇場版 ラジエーションハウス』が4月29日（金・祝）公開予定。

井之脇海 Kai Inowaki
1995年11月24日 生まれ、神奈川県出身。2007年、映画『夕凪の街 桜の国』でデビュー。翌年公開した映画『トウキョウソナタ』では数々の新人賞を受賞。以降、映画やドラマで活躍。近年の出演作として、映画『ONODA 一万夜を越えて』『ミュジコフィリア』など。公開待機作として、映画『猫は逃げた』（今泉力哉監督）、NHK『ちむどんどん』など。