タイムラグのある治療を受けるべきか


このようなタイムラグを意識することがなぜ大切かといえば、検査を受ける立場からは、正しい期待値を持つことが正しい理解につながるからです。正しい期待値を持っていないと「検査を受ければ、すぐに何かわかるのだろう」「すぐに何もわからないなら検査など無駄だ」などと考えてしまうかもしれません。しかし、実際には例えば便潜血検査は1年に1回受け続けることで、10年後に「違い」を生み出す検査です。

検査が害をもたらすこともある。健康診断に生じる「タイムラグ」とは!? 【医師・山田悠史】_img0
 

また、残された時間が限られた人にとっては、より大切な考え方になるかもしれません。例えば、あなたの大切な父親が80歳になり、心不全や糖尿病の治療中で、残された時間が5年程度だと推定されているとします。残りの5年間を元気に過ごすため、1年後からメリットのある治療ならば、受けることは今なお重要でしょう。

一方で、10年後の父親を守るための大腸がん検診なら不要と判断されると思います。残された時間が限られている場合、本当に必要な検査や治療に集中し、不要なものを削ぎ落とす際に大いに参考になる指標です。

 


年齢や持病によって検査を受けない方がいいことも


健康診断には、ここまで紹介してきたような、検査から益までの「タイムラグ」があるものが数多く含まれ、年齢や持病によっては、かえって受けないほうがいいと考えられるものも含まれることがあります。

検査や治療の必要性を考えるとき、その検査の益と害だけでなく、個人の価値観、そしてここで紹介した時間軸までを含めて多角的に判断することが重要であり、ライフステージによって必要な検査や治療が変わってくる可能性があるのです。

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前回記事「「適切な栄養」には個人差がある。病気を防ぐ食生活を学ぼう 【医師・山田悠史】」はこちら>>


参考文献
1    Lee SJ, Leipzig RM, Walter LC. Incorporating lag time to benefit into prevention decisions for older adults. JAMA 2013; 310: 2609–10.
2    Lee SJ, Boscardin WJ, Stijacic-Cenzer I, Conell-Price J, Sarah O, Walter LC. Time lag to benefit after screening for breast and colorectal cancer: meta-analysis of survival data from the United States, Sweden, United Kingdom, and Denmark. BMJ 2013; 346. DOI:10.1136/BMJ.E8441.

 

構成/中川明紀
写真/shutterstock