成長期のエネルギー不足が
「無月経」を引き起こす
伊藤:能瀬先生は、体操競技のような審美系競技の選手の体調管理について、お伝えしたいことはありますか?
能瀬:確かに過度の体重増加はパフォーマンスに影響を与えると思いますが、やはり、成長期の慢性的なエネルギー不足は医学的におすすめできません。
新竹:特にエネルギー不足に注意すべき年齢域はありますか?
能瀬:それは対象とする臓器よっても異なりますが、骨を例にあげると、骨量が増加する中学生頃の摂取量は、非常に重要ですね。
伊藤:お話を伺っていると、アスリートが技術向上のために体重制限をすることと健康を維持することとは、まるで両極端のように感じられます。
能瀬:エネルギー不足が原因で無月経になっている選手の多くは、炭水化物と糖質の摂取量が少ない傾向があります。ただ、過度な糖質制限をしていると、いくらトレーニングを積んでも筋力がつかず、怪我のリスクが増してしまう恐れも。そう考えると、実はパフォーマンス向上の観点からも、成長期の過度な食事制限は非効率なんです。
新竹:私も現役時代はかなりトレーニングをしていたのに、なかなか筋力がつきませんでした。あれは、食べていなかったからなんですね。
競技力向上と健康促進のための体調管理は、一見、相反するように見えますが、一方で、心身を健康に保てなければベストパフォーマンスは出せません。
体操競技のように選手寿命が短い競技であっても、正常に月経が来る健康状態を保ちつつ、その上で競技力を磨くことをを考えていくべきだと、今は思っています。
アスリート自身が
身体の知識を学ぶことも大切
伊藤:新竹さんは、その後、どのように初経が始まったんですか?
新竹:21歳になっても初経がなかったので、そこで初めて婦人科に行きました。
ただ、アスリート専門の病院でなかったこともあり、先生も私の状態をとても驚いていらして。
中用量ピルを処方されて服用したところ、月経は来ましたがかなり副作用が辛く、競技をしながら飲み続けるのは難しいと判断しました。
能瀬:診察していないので確実なことは言えませんが、新竹さんの無月経の原因は、おそらくエネルギー不足。その場合、国際的には中用量ピルは推奨されていないんです。
まずは、エネルギー不足の改善が先決。それでも月経が起こられなければ、皮膚に貼るタイプなどのエストロゲン製剤を使うのが、国際的なスタンダードですね。
伊藤:現役中はそれ以上の治療はされなかったんですか?
新竹:はい。それで、引退後に再度婦人科に通い始めましたが、漢方を処方されて数ヶ月続けるも効果が感じられず。
最終的には、低用量ピルを2年程服用したところ、自然と来るようになりました。
伊藤:現在は、指導者として月経に対する問題意識をお持ちですが、何かきっかけがあったのですか?
新竹:私自身、月経は引退したら自然と来るものと考えていましたが、実際はかなり時間が掛かったので……。
これは選手のためにも、きちんと指導すべき問題と感じました。
能瀬:「無月経で当たり前」という環境は、改善していく必要がありますね。
それが普通になると、婦人科を受診するタイミングを逃すだけでなく、自分が指導者になった場合も、選手を同じ目に合わせてしまうかもしれません。
新竹:将来的には、妊娠を考える選手もいるはずですし、女性の健康にとって10代は大事な時期だと思います。
指導者から情報提供をしていくとともに、選手自身も自分の身体について学べるように指導していきたいですね。
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文/村上治子
構成/片岡千晶(編集部)
前回記事「オリンピック4連覇・レスリング伊調馨選手「筋腫の手術も...現役時代の生理」」>>
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