vol 01. MADISONBLUEを訪れて

 

「スタッフの今日のコーデ」の私服姿にファンの多いエディター・松井陽子さん。そんな松井さんのスタイリングにたびたび登場する「もはや体の一部のよう」という最愛のファッションアイテムを、毎月クローズアップしてお届けする新連載がスタート! 愛するものの魅力を掘り下げるべく、松井さんがデザイナーやディレクターといった物づくりのバックグラウンドを訪問し、作り手の思いや、そのものが生まれた背景に迫ります。


連載の第一回目に訪れたのは、マディソンブルー。デザイナーの中山まりこさんのオフィスに伺いました。まりこさん、そしてマディソンブルーの洋服との出会い、そして、松井さんのお洒落から切り離せないというエクセプショナルなアイテムについて4回にわたってお届けします。

マディソンブルーのシャツを着る日は、ネックレスをつけるのが楽しくなります。ゴールド、ブロンズ……? 燻されたかのような色で少しミステリアスな雰囲気のパールをあしらって。
松井陽子'72年生まれ。湘南・鵠沼海岸在住。女性誌や広告、カタログなどを中心に活動するエディター&ライター。藍染師の夫と3人の子を持つ。
 


「あの頃より、いま。これからもずっと。
 おしゃれの楽しみを繋いでくれる服」


ファッションエディターでありライターである私のクローゼットには、時のファッションを伝える者として、毎シーズン、時には毎月のように「新しいもの」が加わります。

その一方で、リペアしながら着続けているリーバイスのジーンズがあったり、着ては洗濯してを繰り返し、色もサイズも微妙に変わってしまったシャツ、着古して夫に藍で染め直してもらったブラウスや、毎年季節の到来とともに生活を共にするコートやサマードレスもあります。

どちらかというと、後者がメイン。私のおしゃれを支えてくれる服は、今や言葉よりも雄弁に私を物語ってくれるているような気がします。そんなベテラン級の逸品と、ニューフェイスのフレッシュな魅力を掛け合わせる、そのミックスバランスが大好きです。


新しいものが加速度的に世に送り出される中であっても、自分にとって「定位置を持つもの」の存在は、揺らぐことなくプレシャス。つくづくそう思います。好きなものは、やっぱり好き。この先もきっと変わらずに、おしゃれの楽しみを繋いでくれると信じています。

すり減ってしまうくらい着続け、もはや私の一部のように生活を共にしているもの。そして、この先も頼りにし、愛しむであろうものーーー。一体それはどんなふうに生み出され、人の心を引きつける力を授かったのだろう?

「大好きなもの」の魅力、その吸引力の源を改めて知りたいと思いました。

真っ先に連絡し、やや熱量高めな私の願いを快諾してくださったのが、マディソンブルーのデザイナーでありディレクターである中山まりこさん。お仕事の合間をぬってインタービューに応じてくださいました。

 


Hello! MADISONBLUE


初めてマディソンブルーの展示会を訪れたのは2014年。ラックに並んだコレクションアイテムを見た時の衝撃を鮮明に覚えています。

そこには、見事なまでに「憧れ」が詰まっていました。たおやかで、ほんのりと匂い立つようなヘルシーな色気をまとった、素敵な大人の女性像がくっきりと浮かび上がったのです。

どこか余裕があって、しなやかで……。それは、年齢を重ねた先にいる「なりたい自分の姿」とも重なる感覚。いつの日か、白髪がもっと混じって、顔にも手にもシワができ、その頃の私もきっと大好きなスタイルに違いない、そう確信しました。

服を見て心が躍るなんて、何十年ぶりのことか。 中学、高校と友達と渋谷や下北沢のショップをぐるぐるめぐっていたあの頃。古着やアメカジ、憧れの服やお店からエネルギーをもらっていた、心躍るあの気持ち! ーーーそう。昔のアルバムに一緒にしまい込んでいた当時のときめきが心に戻ってきたようでした。

当時40代そこそこの私は、成熟を感じつつも成熟しきれてはいない。かと言って未熟でもない、「ちょうどいい」に迷う曖昧な年齢だったこともあったと思います。ラックに並んでいた服が教えてくれたのは、若さを取り繕う必要もなければ、全身がっちりとラグジュアリーで固める必要もないという、それまでの「大人のおしゃれの選択肢」にはない、真新しい提案でした。

いまの自分のままに、自由に楽しめる服。もしかしたら、5年、10年後にはこの洋服ともっと仲良くなっているかもしれない。今日や明日のためではない、きっと数年後の自分に繋がる服。ハイセンスな大人のカジュアルスタイルがあることを知った喜びと言ったら……!

その日まりこさんとの初めましてのご挨拶の際に、「年齢を重ねるのが一気に楽しみになりました」と話したことは、8年経った今でも新鮮なまま心の中にあります。そしてあの日以来、私のワードローブにはマディソンブルーの服が着実に増えています。


まりこさんの言葉を紡ぎ、ルック撮影に携わって


ある時、まりこさんから「ヨーコちゃんにやってほしいんだよね」とお電話いただき、そのままお引き受けしたのが書籍のお仕事でした。それが『大人のおしゃれRULE BOOK A to Z』(2015年刊)です。まりこさんにとっても私にとっても書籍は初めてで、進行も様子もわからない。「でもなんだか楽しいに違いない!」と予感のままにお受けしましたが、本当にその通り!

 

タイトルの「A to Z」という通り、AgeからZeroまで。おしゃれにまつわる、いろいろ。まりこさんの言葉やマインドを紡ぎつつまとめていく作業は、それは特別で、とっても愉快な経験でした。

よく考えるとこの時のまりこさんと、今の私の年齢がちょうど同じくらい。この年齢になって読み返すと、より深く共感し、さらに納得できるようになったこともあります。そして、つくづく思うのは、まりこさんはさらに進化し続けているということ。同時に「ルールブック」というこのタイトルの通り、この時とブレていない、ということ。おそらくこの先もう少し年齢を重ねて手にしても、この本はルールブックであり続け、ガイドブックになってくれるのだと思います。

またある時に「ヨーコちゃんどう?」とお話があり、LOOKモデルまで努めさせていただくことに。大好きなマディソンブルーの服をシーズン前に着られるというプレシャスな経験もさせてもらいました。それにしても、シーズンを重ねるたびにサンプルが並んだラックが続々と増える様子には、正直、驚嘆と感嘆の「!」ばかり。まりこさんのパッションはもう誰にも止められないなと、撮影のたびに心底思っていました。……それもまた、今もなお同じです。

 

心で、体で「マディソンブルー」を実感する機会に恵まれながら、私はまりこさんのデザイナーとしての美意識、一人の人としての生き様、そして優しくて熱いハートがますます大好きになりました。情熱があって、フレッシュ。ピュアで、ちょっとやんちゃで。人生の少し先を明るい光で照らしてくれる、灯台のような大人なのです。

そして、それは確実に洋服に映し出されています。マディソンブルーの服は、なぜなのでしょう、身につけると気持ちを上向かせてくれます。シャツ一枚であったとしてもそうなのです。装う人の佇まいが、まるで「絵」のように形取られるかのよう。服が前に出るわけでもなく、ちょうどよい具合に着る人に特別な額縁を授けてくれるような、そんなイメージ。

優美、華やぎ、シック、こなれ感、さりげなさ、洗練……。原稿を書く時に頻出する、大人の「素敵」を表現する言葉。服がそれを絶妙に表現しているーーと言ったら大袈裟に聞こえるかもしれませんが、まりこさんの服にはそんな魅力があるのです。

そんなふうに私の心を、そして世の多くの女性たちの心を掴み、離さないのは、なぜ? 常に新しい風を吹き込んでくれる服のその魅力の源とは……?

久しぶりに、ゆっくりとまりこさんに服づくりのお話を伺う機会に恵まれました。次回から3回にわたって、お届けしていきたいと思います。ゆったりとお付き合いいただけたらうれしいです。

『大人のおしゃれRULE BOOK A to Z』(2015年宝島社)の最初のキーワードがAge。「単に加齢とはとらえない。歳を重ねることはスタイルを築くことだから」。年齢は力、豊かなもの、というまりこさんの言葉はストレートで、大好き!


<次回に続く>
 

撮影/目黒智子
構成・文/松井陽子
編集/朏 亜希子(mi-mollet編集部)
撮影協力/マディソンブルー