たとえばアメリカは、医療費が高くて簡単に病院に行けないともあって、健康管理意識が高い人が多いと言われています。実際、「セルフメディケーション(自己判断で健康の維持や病気の予防に取り組むこと)」が推進されており、まず不調を感じたら自分でインターネットを使って調べ、ドラッグストアで薬を入手するのが一般的。日本でもこの「セルフメディケーション」は医療費増大の対策として勧められており、「スイッチOTC医薬品(医者から処方される薬のうち、安全性が高いことから市販薬にスイッチしたもの)」と言われる薬を購入した場合は、所得控除を受けることもできるようになってきています。

つまり、日本を医療費で滅ぼしてしまわないためには、私たち個人ができる範囲で医療知識を身に着け、健康意識を高めることが必要ということ。でも、医療知識と言われると、何だかとっても難しそうで「無理……」と思ってしまいますよね。そこで、冒頭でオススメした『ダイアグノーシス』を是非見ていただきたいと思うのです。


自分を守る術をドラマチックに、分かりやすく!


ダイアグノーシスとは英語で「診断」という意味。そのタイトルが示す通り医療ものドキュメンタリーで、原因不明の症状に悩まされる人たちを、ある女性医師がネットを駆使して情報集め、原因またはベストな治療法を探っていくというもの。

ある女性は、しばしば動けないほどの激しい筋肉痛に襲われる、という謎の症状に悩まされています。様々な疾患を疑って検査を受けるも全て異常なし。とにかく原因が分からないのです。そこで彼女は女性医師の力を借りて、ネットを通じて世界中から意見を募集します。「糖尿病からきているかもしれない」「ライム病かもしれない」など、人々は様々な原因の可能性を提案。見ていると、「なるほど、不調の原因というのはこんなふうに推測し、そしてそこから治療方法を考えていくのか」と、言葉は悪いですが面白くなっていきます。そして気づけば、「私はここから原因がきていると思うなあ」などと、にわか医者のような気分で診断している自分がいたりします。

 

医療知識を身に着け、自分の不調の原因を推理することは想像以上に面白い!


この作品に出会って私が感じたことは、医療知識を身に着け自分の不調の原因を推理することは想像以上に面白い、ということでした。『ダイアグノーシス』は、その医療知識の身につけ方、原因の推理の仕方、そして治療の探り方など、自分を守る術を分ちょっとドラマチックに、分かりやすく教えてくれています。

謎の筋肉の痛みに悩まされていた女性は、様々な意見から、それは代謝性疾患(=遺伝子が原因で特定の酵素に異常があり、代謝が正常に行われない疾患)から来ているのではないかと推測します。そしてイタリアの専門医に遺伝子の解析を依頼。その結果、「CPT2欠損症」といって、脂肪酸が欠乏する体質であることが分かりました。何と、脂質を減らすという食事療法だけで改善される病気だったのでした。

これは、近所の1人の医者に診てもらっただけでは決して分からない病気でしょう。不調の原因は無数にあるもの。膨大な可能性を探り、原因を特定していくという労力を、忙しい医師に割いてもらうことは無理です。それができるのは自分だけ。だからこそ、ヘルスリテラシーを高めることはとてつもなく重要なのです。そしてそれが、医療費を減らして国のピンチも救うことができるかもしれないとなると、尚のこと高める価値はあるのではないでしょうか。

是非、『ダイアグノーシス』を見てほしい。もしかしたらすぐ様、「私の長年の不調も食事が原因なのかも?」、「何か遺伝性疾患によるものなのかも?」なんて、探偵のように探り始めるアナタがいるかもしれません。

文/山本奈緒子 構成/藤本容子

 
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