浅田:経済が先細り不安がある時代には、医療費や社会保障費がかさむ人たちに対して、「自分が生きるのにせいいっぱい、そこまで面倒見られない」「苦労して払った税金が、役に立たない奴らに使われるのか」といったことが言われ始めるんですよね。
アツミ:ナチスの台頭も、第一次世界大戦でドイツが負けて、多額の賠償金に苦しんでいた時代ですよね。
「椅子取りゲーム」に残った人が考える社会の勝敗ルール
浅田:現代は、当事者の方の動きもあり、障害者差別解消法やバリアフリー法など法整備もされつつあります。でも社会に何かあればマイノリティは後回しにされてしまう。コロナ禍の不景気でも、どうにかやりくりしないと……と削ることばかりで、「そもそも私たちはどんな社会を目指しているんだっけ?」という議論がないまま、「椅子取りゲーム」が始まっちゃうわけです。
アツミ:椅子取りゲーム?
浅田:椅子取りゲームって、椅子が減るたびに「残った椅子を勝ち取るために、もっと頑張らないと」と思うじゃないですか。そうなると何らかの事情で椅子に座れない人が必ず出てしまいます。でも椅子そのものをシェアして座れるソファに作り替えれば、奪い合わなくてもより多くの人が座れますよね。つまり構造そのものが変わらないと、状況は良くなりません。
バタ:でも社会で物事の決定権を持っているのは、たいていが「椅子を勝ち取った人」ですよね。人間の「優劣」も、勝者の考える「勝ち組、負け組」で決められている気がしますし。
浅田:権力や発言力をもつ人の価値観が前面に出ちゃうんですよね。それが今の時代は、お金とか権力とかなんでしょうね。
アツミ:世に出てる人って、なんかギラっとしてますもんね。
浅田:大きい声で「自分はイケてる」みたいな感じを出してくるじゃないですか。でもこっちは別にギラっとしたくないし、イケてなくてもいいし。そろそろ経済至上主義がしんどい気がしています。お金はたくさん持っていなくても楽しく生きる方法はあると思う。これは私たちメディアの責任だとも思っています。メディアが「こっちが勝ち」みたいなスタンダードを作るから、そこを目指さなきゃいような気がするし、たどり着けない自分は不幸なんじゃないか、ダメなんじゃないかと思ってしまうんですよね。誰かに自分の価値を判断させない! という心を持つのが一番だと思っています。
バタ:わかっていても、難しいところです……。
浅田:ですよね。自分ひとりじゃしんどいので、まずは家族や友達、身の回りの人から「誰かに人の優劣や価値を判断させない」価値観を共有していくのが大事かなと思います。
バタ:優生思想に囚われないために「人の価値に左右されないためのオススメの本」はありますか?
・障害当事者が障害の概念について語った本
『わたしが障害者じゃなくなる日』海老原宏美
・時間どろぼうと特殊な能力を持った女の子の対決を描く不朽の名作
『モモ』ミヒャエル・エンデ
・さまざまな独身生活をおくる女性の暮らしを描いた漫画
『るきさん』高野文子
アツミ・バタ:貴重なお話、ありがとうございました。
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)
写真/shutterstock
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