全国的に問題になっている「駅の無人化」。鉄道利用者の減少に対して、人件費削減の合理化が進む一方で、“人がいないと困る人”の行動の自由が奪われる一面も。介助が必要な人は無人駅を使わなければいい、で済ませてよいのでしょうか。

社会派ライターの渥美志保とミモレ編集部のバタやんこと川端里恵の“アツバタ”コンビが、今気になるニュースなキーワードの背景を探り、学んでいく新連載。今回のテーマは「自己責任論」です。NHKで福祉関係の番組を多く手掛けるディレクターの浅田環さんにお話を伺いました。

無人駅に車椅子で行くのはわがまま?「自己責任論」に決定的に欠けている視点とは_img0
 


介助が必要な人が無人駅を利用したいと言うのはわがまま?


編集・川端里恵(以下、バタ):前回「不景気な時代には優生思想が出てきやすい」というお話をしていただきましたが、コロナ禍や国際戦争が始まった今ってまさにそういう時代ですね。

 

浅田環さん(以下、浅田):そういう中で、しわ寄せが行きがちなのが障がい者福祉に関わる事柄なんです。例えば全国的に問題になっている「駅の無人化」。今、大分市の中心部に近い駅の無人化を巡って、乗降時に段差があるため駅員の介助が必要な車椅子利用者が訴訟を起こしています。なぜ反対運動ではなく裁判にしたかというと、自分たちが生活する上で重大な問題であると知ってもらい、「大変だね」「かわいそう」などの感情論でなく法律ベースの議論を起こしたかったからだと。そういうことが理解してもらえないと、「不景気で廃線すら議論されているのに、わがままだ」と言われてしまうんですよね。昨年東京オリパラで多様性、共生社会を大きく打ち出していましたが、本当の日本の“現在地”はどこなのか……一つの指標になる裁判だと思っています。

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渥美志保(以下、アツミ):関東でも、車椅子利用者のコラムニスト、伊是名夏子さんが無人駅での下車を拒否された一件がありました。詳細を聞くと、JR側の対応に疑問を感じるのですが、ネットでは伊是名さんに対する「自己責任」「何様?」という反応が大半で。

伊是名夏子さんが乗車拒否の顛末を上げたブログに批判の声
伊是名夏子さんとお子さん、友人らで旅行に出かけた際、小田原駅でJ R来宮駅へ行きたい旨を告げたところ、直前になって「無人駅の来宮駅には階段しかなく、ご案内できない」と駅員から言われます。1時間以上のやり取りの後、結果的に駅員らが同行し来宮駅での乗降を手伝ってくれたのですが……その顛末を伊是名さんがブログであかすと、賛否の声がSNSに上がり、「感謝がない」「わがままだ」という反発の声や誹謗中傷が相次いだといいます。

バタ結果対応してくれたのに、そこに文句をつけるなんて……という感じですね。駅は無人化だけでなく、スロープやエレベーターなどの要請もあるだろうし、全部やっていたらいくらかかるの……とモヤモヤする人もいるかも。

アツミ:でもスロープやエレベーターって、ベビーカーのお母さんや高齢者にも関わってくることですよね。

浅田:駅の無人化もお子さん連れや高齢者にとって同じ心配はあると思いますよ。また、取材する中で、娘が通う大学の最寄り駅が無人化された親御さんで「不審者がいたら……と思うと心配で、夜遅くなったら車で迎えに行く」という人もいました。

バタ確かに、夜遅い時間に女性や子ども一人だと駅員さんがいるほうが安心だし、何かあった時に「無人駅だって分かってたんだから自己責任」と言われたら辛いかも。

浅田:「障がい者の問題」だと、自分とは無関係だとおもっちゃうじゃないですか。でも社会で起こっていることって、自分と無関係なことなんてないんです。それを前提に、「どう関係してくるのかな?」と考えてもらえるといいですよね。