毎年欠かさなかった、家族での花見


納棺式を始めようとご遺族に声をかけると、50代後半ぐらいの息子さん2名とその奥様、高校生や20歳前後の子供たち(故人のお孫さん)5名が立ち会われ、広い和室も少し窮屈に感じるほどでした。

少し広くしましょう、と奥様が隣部屋の襖も開けました。するとそこに四方を本棚に囲まれた小さな部屋が現れました。

「その人らしい最後のお別れ」とは何か。納棺師と満開の桜が紡いだ、美しい風景が教えてくれるもの_img0
 

息子さんが部屋の中に座布団を敷きながら、
「ここは立ち入り禁止だからな、親父、怒るかもな」
と笑っています。
「すごい本! 書斎ですか?」
 そう聞くと、
「父は日本文学の先生だったからね、この部屋にいる時は、ご飯だと声をかけても出てこなかったし、子供の頃は、ここは父だけが入れる特別な場所だったんですよ」
と、息子さんが部屋を見回しながら答えてくれました。
「口数も少ない人だから、子供たちにとっては、どこか怖い存在だったかもしれませんね」
奥様が言うと、息子さんたちも笑いながら同意します。

 

故人が好きだった深い紺色の着物に着替えると、「先生」らしく凜とした姿にご遺族の方々がホッとしたのか、会話が弾み始めました。

口数の少なかったお父さんですが、家族が集まる恒例の花見をとても楽しみにしていたようです。孫が好きなあの料理を作ってくれ、と奥様にリクエストをしたり、毎年とっておきのワインを出してきたり、人数分の椅子を庭に用意したり。体が動くうちは、お父さんが全て取り仕切って行う恒例行事でした。

老人ホームに入ってからも、桜の時期はお花見をしに帰宅していたようです。毎年撮った集合写真まで並べて見せてくれ、納棺式がなかなか進みません。