桜の下の納棺式、笑顔が咲く美しい光景
それでも私には、いつもの流れをふっ飛ばしてでも、聞いていたい話でした。そして、ご遺族にとっても今話さないといけない、大切な思い出でした。
みなさんで写真を見ながら盛り上がっているところで、私は会話から離れて納棺の準備をすることにしました。
ご遺族の話をうかがって、納棺式が少し変わりました。部屋の入り口の作りが狭く、縁側から棺を入れようとあらかじめ準備をしていたのですが、花見の話を聞いていた葬儀会社の担当者さんが、私にだけ聞こえる声で、
「ここに置いちゃおうか」
と言ってニヤッとすると、桜の花の下に棺台を置いたのです。
その、いたずらを思いついたような顔に調子を合わせた私も、
「花見と言ったらお酒ですよね」
と祭壇に飾ってあるワインを小さく指さしました。お父さんが好きだったワインです。
その提案を、担当者さんがご遺族に話すと、お孫さんたちが、
「おじいちゃんと花見できるの!?」
と驚いたような声を上げていましたが、みなさん玄関から靴を持ち、次々に庭へ移動します。棺にお父さんを移動して、棺の中を綺麗に整えたところで、私は退席することになりましたが、花見はまだまだ始まったばかりです。
桜の木の下には、亡くなったお父さんが寝ている真っ白い棺が置いてあり、その周りでご遺族が思い思いに話をしながら笑っています。
お父さんとの最後のお花見―─。
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