言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。

これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。

 


「優しい嘘をひとつだけ」連載一覧はこちら>>
 

第28話 42歳、美容医療にハマる①

 

帰宅して洗面所に直行、マスクを捨て、念入りに手洗いとうがいをしてから一息ついた里香は、目の前の鏡を見て幾分ぎょっとした。

――なんか顔の下半分が……たるんでる?

「チワワの目に似てる」とからかわれるほど目が大きい里香にとって、マスクは美点を強調する便利なアイテムだった。フリーライターをしていて、初対面の取材先では目元だけを出した状態で42歳だとわかるととても驚かれる。

これ幸いと、薄ピンクの小顔効果がある立体マスクなどを使い快適に過ごしていたが、そのぶんケアを怠ったり、表情筋肉が衰えたりしたのだろうか、なんだか急に輪郭がぼやけ、たるんだような気がする。

ほうれい線も、改めてみるとこれほど深かっただろうか……。

リビングにおいてある、もう15年も前の結婚式の写真を思い浮かべる。あの頃はもっと頬下がシャープだった。もちろん同じというわけにはいかないが、これはあんまりじゃなかろうか。横顔を横目で確認すると、やっぱりどうにもぼんやりしたフォルム。里香は、にわかに焦りを感じはじめた。