毎日のように目にするウクライナの戦争の報道で、これまた毎日のように出てくるプーチン大統領。もうこの顔見たくないんだってば……とか思ってたわけですが、だんだんとその行動パターンを興味深く見始めてる今日この頃。つい「プーチン本部長」とか呼びたくなっちゃうのは、めっちゃ古い体質の日本企業にいそうなマッチョなおっさんだからです。

写真;アフロ


なぜプーチン大統領はこんなに非効率的な攻め方をするのか


私が「これは!」と思ったのは、こちらの「平和条約交渉打ち切り『責任は日本に』ロシア声明趣旨」という記事で、タイトルまんまロシアの声明なんですが、その最後についてるこの言葉。

「2国間関係と日本自身の利益への損失に対するすべての責任は、相互利益の協力と善隣関係の発展の代わりに、反ロシア路線の方を意識的に選んだ日本政府にある」

こ、これは「こんな目に合うのは、俺にたてついたお前が悪い」っていう、DV男特有の理論展開では……。前回の記事(映画界の性暴力被害)で触れた「有害な男性性」がまさにこれなのですが、よく考えたらプーチン本部長、じゃなかった大統領の言動って「有害な男性性」の象徴なんじゃないか。例えば、毎年夏のワイルドな休暇にマスコミ軍団を同行させて、自分の筋肉とマッチョぶりを見せびらかして世界中に配信させるのもそうだし、現在の戦争でも、核や化学兵器をちらつかせながら欧米をチキンレースに引きずり込もうとするのもそうだし。戦争が始まった時、軍事評論家の方が「なんでこんなに非効率的な攻め方をするのか、よくわからない」と言っていたのですが、想像するにプーチン本部長、じゃなかった大統領の目的は、破壊しつくした都市を全世界に見せることだったんじゃないかなあ。シリアとかチェチェンもそうだったし。

 


SNSを駆使するゼレンスキー大統領(44歳)の巧みさ


さておき、ウクライナ関連のニュースを見ていて、ずっと不思議だったことがあります。ええと、こんな混乱した状況で、なんでウクライナのネットはつながってんのかしら? ロシアは戦争の最初の頃にそういう施設をぶっ壊してたはずなのに、ゼレンスキー大統領(44歳)も戦線の攻撃の模様も、市民の投稿も普通に配信されているし……。その謎が解けたのがこちら、テレビ東京(さすが!)が実現させたウクライナのデジタル副大臣へのインタビュー。

かいつまんでいうと、ウクライナにはIT企業家のデジタル大臣(31歳)と副大臣(40歳)がいて、デジタルの世界であらゆることを処理してるんですね。例えばアメリカの宇宙開発企業「スペースX」のCEOで天才エンジニアのイーロン・マスクとやりとりして衛星から直接ネットにつながるようにしたり、支援を含むお金のやり取りにデジタル通貨を使ったり、世界的な企業にSNSを通じて呼びかけ、ロシア市場から300社以上を撤退させたり(「SNSだと世界中が注目しているから、僕らの呼びかけを黙殺できないんですよ」)、ネット上にデジタル軍(30万人)を創設し、SNSを通じて指令を出しデジタル攻撃を仕掛けてたり……。私は思いました。もしかしたらウクライナは、ロシアを押し戻せるんじゃないか?

写真;アフロ

そしてなんとなーく感じるのは、この戦争はある意味では「世代の戦い」なんじゃないかということです。スターリンに例えられることも多くなったプーチン大統領(69歳)は、権力と暴力、力と数の論理で他者を従えてきた、あまりにも20世紀的な「支配者」です。一方のゼレンスキー大統領(44歳)はSNSを駆使して国民はもとより国外の様々な協力者とつながり、国際社会から「共感」を得ることに全力を尽くし、各国のネット演説を見る限りでは、どうすればそれが実現するかも完全に理解している人のようです。もちろん今回のロシアの軍事侵攻には1ミリも共感できないけれど、その一方で、危機に際して即座に戦える年齢の男性の出国を禁じ、ロシア相手にこれだけ戦えるウクライナだって、ある意味の「軍事国家」であるに違いありません。にもかかわらず。当事者である2つの国が、ここまで違って見える戦争も珍しい気がします。特に西側でプーチン大統領があまりに不人気なのは「権力と暴力で威圧すりゃあ誰もが言うこと聞くと思ってる、恐竜時代のおっさんにはもううんざり」といったところかもしれません。
 

知った顔して「傷が浅いうちに降伏すべき」などとのたまう人たち


日本においてあきれ返るのは、そんなプーチン大統領の「恐竜時代的な強者による、権力と暴力による支配」を前に「ウクライナはどうせ勝てないんだから、傷が浅いうちに降伏すべき」などと、公共の電波で無神経に言う人ーーコメンテーターとか芸人とか政治家とかがいることです。私は戦争に反対だし、どんな戦争も起きてほしくないけれど、スターリン時代の歴史をフラッシュバックさせるプーチンの横暴に「No」を言い続けるウクライナの人たちの覚悟を、「どうせ勝てないんだから」と否定する気にはなれない。だってそれはまるで「DV夫から一度は逃げたのに、捕まってしまった妻」に、「また逃げられないから、歯向かっても仕方ない」「あなたがおとなしくしていれば、そこまでひどくは殴られないのでは」「向こうはあなたのためを思ってる」みたいなことを言う、知った顔して何もわかってない、おためごかしの、そして結局のところ「強者による権力と暴力の支配」を肯定しているクソ野郎にしか見えないからです。

戦争を単純に「勝ち負け」という視点でしか見ない人は、つまりは「勝てる」と思えば戦争をする人なのかもしれません。実際、そういう人たちがゼレンスキー演説の後に「自分はゼレンスキー派」アピールしだすのも、彼らが「勝ち馬」に乗りたいってことなんでしょう。でもあらゆる国が、経済、エネルギー、環境、金融でつながった現代における戦争で、得する国なんてあるんでしょうか? 国際社会から締め出されたロシアはもちろん、主要都市を破壊しつくされたウクライナだって、たとえロシアを追い出しても「負けなかった」だけで「勝った」とはいえないでしょう。人もお金もあらゆることがもったいない。
 


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