Netflixで話題になった実録ドキュメンタリー『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』と実話を元にしたドラマ『令嬢アンナの真実』には共通点があります。作り話のような本当の話で、巧みな嘘で人を騙す“詐欺師”が登場するのも同じ。そして、もうひとつ。男らしさとか、女らしさとか、上流階級への憧れとか、無意識バイアスの怖さを女性の作り手たちから届けられている点も一緒なのです。

憧れの「王子様」像は全くの偽りだった?!


気になる男性がいたら右にスワイプ、相手も気に入ればマッチングが成立。お手軽に恋人探しができるTinderで複数の被害者女性たちから推定総額10億円をもだまし取った話を暴露するヒットドキュメンタリー『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』がNetflixで全世界独占配信中です。その余りにも莫大な被害金額に驚くだけでなく、国際ロマンス詐欺師のベタでありながら巧妙な手口は「もし自分だったら…」と置き換えると青ざめます。

『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』Netflix独占配信中。Courtesy of Netflix

なぜ、セシリーをはじめ、登場する被害者女性たちは「ダイヤモンドの王子」のふりをしてサイモン・レビエフと名乗るプレイボーイを信じ込んでしまったのか。皮肉にもそんな現実を突きつけてもきます。レビエフことシモン・ハユットが、いかに富も地位も権力も持っているかを顕示し、紳士らしい振る舞いをしていたことが大きかったはず。多くの女性が潜在意識にある憧れの「王子様」像を利用し、まんまとそれを作り上げていたのです。

 

正体がバレると、それは全くの偽りの姿だったわけですが、それに気づいた時には既に時遅し。ハユットの借金のために経済的な負担を強いられてしまいます。

だったら、騙される方が悪いのか。セシリーたちを突き離す話に終わらせず、泣き寝入りで終わらせないかたちがこのドキュメンタリーの最大の見どころです。自分たちの失敗を受け止めながら、ハユットに報いを受けさせるべく、勇気を持って反撃に出る姿が描かれていくのです。

上手くいくかどうか。それは見てのお楽しみです。そもそも、作り手である監督兼プロデューサーのフェリシティ・モリスとバーナデット・ヒギンズがこのロマンス犯罪ドキュメントを届けたかったのは、このラストのためと言っても過言ではないでしょう。世界中の女性たちに「自分ごと化」して見てもらいたいという意思の表れを強く感じます。

この2人の女性の作り手が事件の背景を自ら語るオーディオミニシリーズも公開中です。全編英語ですが、Spotifyを通じて人気ドキュメンタリー・ポッドキャスト「You Can’t Make This Up (原題)」のフィードで聞くことができます。事実を知り、学んでいく。そんなプロセスを共有することができるはずです。

 
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