良い意味で「裏切り続ける」ギャップがある人であり続けたい
――井上さんの人生がRPGだとしたら、ご自身の傷を回復する方法もお持ちですか?
井上アナ:ないんですよね。仕事のストレスは、仕事でしか解消できないと分かりましたし。今日仕事でストレスが溜まったら、明日の仕事で解消する。でも、明日は明日で仕事のストレスが溜まる。それを一生続けるんだろうなと思います。それもRPGだと考えれば、消耗しているとは感じません。何より僕自身ストレスがないとダメな人間なので、面白がるようにしています。
――その“強メンタル”の原動力になっているのは、「テレビを変えたい」という思いの他にも何かあるのでしょうか。
井上アナ:「局アナで日本一の司会者になる」という思いは、ひとつの原動力になっていますね。局アナ出身の司会者には、久米宏さん(元TBS)、古舘伊知郎さん(元テレビ朝日)、宮根誠司さん(元朝日放送)、そして僕の大先輩の安住(紳一郎)さんなどがいますが、皆さんバラエティ番組で研鑽を積んでいる。僕が同じ道を辿ってもその頂には立てません。それなら違う山の登り方をしてみようと、情報・報道番組から歩を進めましたがなかなか知名度も上がらず、十数年は地べたを這いつくばってきた感すらありました。そこに希望の光を与えてくださったのが、逸見政孝さん(元フジテレビ)なんです。逸見さんは報道マンとしての顔が広く知られていましたが、そこから日本一の司会者になられた。逸見さんの歩みは、僕にとっての道しるべとなっています。
――井上さんが「局アナ」にこだわり続ける理由はありますか?
井上アナ:フリーのアナウンサーの方たちは素晴らしいと思いますし、尊敬もしています。今は「アナウンサーはフリーになって一人前」という風潮もありますし。ですが、局アナはフリーへのステップアップでも踏み台でもない。「ふざけんじゃねえ」という気持ちも正直ないわけではありません。僕も会社を辞めたいと思ったことはあるし、実際に転職活動をしたこともあるんですけどね(笑)。でも、組織を変えるには、組織の中にいなければできないことがたくさんありますし、今となっては「なりたい職業ランキング」に「テレビ局アナウンサー」がランクインするように頑張ろうとまで考えています。不思議なものですよね、愛社精神って。知らぬ間にこうなっていました。
――テレビで拝見していて、勝手ながら“沈着冷静でクール”な印象だったのですが、反骨精神あふれる一面も垣間見させていただいた気がします。
井上アナ:反骨精神ではなく、単にあまのじゃくなだけなんです。沈着冷静、クール、真面目という印象を持っていただくことも多いんですけど、自分では全くそんな風には思っていなくて。ただ、そういったイメージを持ってくださっているとしたら、皆さんを裏切る大きなチャンスだと最近では思っています。良い意味で「裏切り続ける」ギャップがある人の方が、やっぱり魅力的ですからね。僕もこれから、視聴者の方やリスナーの方を良い意味で裏切り続けていきたいです。
<ラジオ番組紹介>
TBSラジオ「井上貴博 土曜日の『あ』」
放送時間:毎週土曜日/13:00~15:00 ※4月のみ13:00〜15:55
出演:井上貴博(TBSアナウンサー)、田中ひとみ(TBSラジオキャスター)
リスナーと一緒に立ち止まり、わからないことをわからないと言える場所にするべく、「あ!」「あー」など色んな「あ」を探し、「これ、いいね」という気づきを共有していく番組。毎回スペシャルゲストを迎えるほか、パラスポーツ選手や、ちょっと変わった仕事を生業にしている人など、様々な人にスポットを当てたコーナーを多数用意。番組内では井上アナとリスナーが直接電話をつないでのトークも。
【Twitter】@doa905954
<新刊紹介>
『伝わるチカラ 「伝える」の先にある「伝わる」ということ』
著者:井上貴博 ダイヤモンド社 1540円(税込)発売日:5月18日
TBSアナウンサーとして、「Nスタ」をはじめ多数の情報・報道番組に出演してきた井上貴博さんによる初の著書。テレビの現場での自身のエピソードを織り混ぜながら、プロのアナウンサーとして培った「伝わる」話し方を伝授してくれる。
撮影/吉永和久
取材・文/金澤英恵
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