自分がしていることを書くのは歓び
脳の衰えを感じたホール氏は詩作を辞めてしまいましたが、文章を書くこと自体はその後も継続していました。老境のホール氏にとって書くことはどんな意味を持っていたのでしょう? 相変わらず淡々とした口調ではありますが、以下のフレーズからはホール氏が書くという行為を心から大事に思っていたことが伝わってきます。
「老いは喪失の儀式だ。それでも、47歳や52歳で死ぬよりはいい。衰えをただ嘆いているばかりでは何も達成できない。日がな一日、窓辺にたたずみ、鳥や小屋や花を見るのを愉しんだほうがいい。自分がしていることを書くのは歓びだ」
著者プロフィール
ドナルド・ホール(DONALD HALL)さん
1928年9月20日~2018年6月23日。アメリカの詩人、作家、編集者、文芸評論家。児童文学、伝記、回想録、エッセイなど、22の詩集を含む50冊以上の著作がある。フィリップ・スエクセター・アカデミー、ハーバード、オックスフォードを卒業。2006年、米国議会図書館の第14代桂冠詩人コンサルタントに任命される。1980年のコールデコット・メダルを受賞した絵本『にぐるまひいて』(ほるぷ出版)の原作者でもある。
著者プロフィール
田村義進(たむら よしのぶ)さん
英米文学翻訳家。訳書にキング『書くことについて』(小学館文庫)、カッゲ『静寂とは』(辰巳出版)、クリスティー『メソポタミアの殺人 新訳版』(ハヤカワ文庫)、 ムカジー『マハラジャの葬列』(ハヤカワ・ミステリ)ほか多数。
『死ぬより老いるのが心配だ 80を過ぎた詩人のエッセイ』
著者:ドナルド・ホール &books(辰巳出版) 1540円(税込)
K-POPグループ、BTSのアルバム『BE』のコンセプト会議で、メンバーのジミンが言及したことで大きな話題となったエッセイです。ドナルド・ホール氏の研ぎ澄まされた感性と、ユーモアを交えた表現が魅力で、老いをありのまま捉えたその文章によってさまざまな感情が呼びおこされるでしょう。
構成/さくま健太
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