こんばんは。編集・川端です。
「真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室」、第107夜をお届けします。

今夜は私がいま激推しの小説を勝手にプレゼンするコーナーです。
今日の勝手に貸し出しカードは、ペク・オニュさん著、吉原育子さん訳の『ユ・ウォン』です。

大好きなK文学。これは、今年のベストブック入り確定です。前回ご紹介した、井上荒野さんの『生皮』をベストブックとすでに言ってしまったかもしれない(汗)。ではこちらは、翻訳部門ベストということで……。

マンションの大火災から奇跡的に生き残った少女ユ・ウォン。部屋に火の手がまわる中、彼女を布団で包んでベランダから放り投げた姉は亡くなり、下で受け止めたおじさんは足の骨を砕く大怪我を負って障害が残ります。「布団の子」を救ったおじさんは、一躍ヒーローになるのですが、彼は決して聖人ではなく。彼女の家にお金をせびりにくるのです。

 

一方、「布団の子」として世間の注目を集めた少女は、その後、不幸そうでも楽しそうでも普通でも何かと好奇の目で見られてしまいます。人との深い関わりを避けて、孤独を選んで生きてきたユ・ウォンに、初めてできた友達らしき子との交流が彼女を変えていくことになるのですが……というお話です。

重荷を背負った少女のただただ悲しいお話ではなくて、サスペンスな要素とシスターフッド的な冒険譚でもあり、爽快さが残ります。

「知床遊覧船」の事故で亡くなった方が残した彼女へのプロポーズの手紙がニュースになっていました。亡くなっても、生き残っても、親しい友人さえ知ることのなかったプライベートなことが国民中の注目を集めることに、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えました。ご家族のご意向もあったのだと思いますが。この小説と重ね合わせて、私たちがつい“感動の物語として消費する怖さ”について考えさせられました。


<今夜の勝手に貸出カード>

『ユ・ウォン』ペク・オニュ著、吉原育子訳


【第107夜】善意と好奇は紙一重。優しいふりをした好奇心に気をつけて
 


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<次回>
5月18日(水)22時配信予定

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撮影/塚田亮平

 

 


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