言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。

これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。

 


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これまでの話出版社で働く涼子は、大学時代の同級生、晃司と結婚。二人の娘も中学生になり、ほっと一息。そんなある日、神戸に住んでいた義両親が一軒家を売却し、東京に小さなマンションを購入したと聞かされる。いい距離感を保ってきたと思っていた義母・早苗が、準備のため単身上京してくるが、さっそく涼子の家に泊ると言い出して……?


嫁の忖度と義母の提案

 

「お義母さん、今回東京にはお義父さんもいらっしゃると思って、麻布十番の中華を考えていたんですけど……実は5人だと個室チャージがかかっちゃうんです」

満面の笑顔でどっかりと涼子の家のソファに座り、無限にお茶を啜る義母の早苗。涼子は内心ゲンナリしながらもどうにか笑顔で訊ねた。結局今夜はこの家に泊るらしい。

ディナーは孫である由真と絵美も含めて、皆で久々の再会を祝う予定だ。ひょっとして絵美の中学合格祝いで早苗がご馳走してくれるつもりかもしれない。例えば涼子の母であれば、たまにしか会えない娘家族、ましてや孫の進学のタイミングであればお会計を持つことが予想された。そうなれば、5千円の個室料を早苗が苦い顔をする可能性もある。場合によっては他の店にしようと考えたのだ。

「麻布十番は小さいお店が多いでしょう? 赤坂あたりのホテルならば、ゆっくりお食事できるんじゃないかしら」

「へえ、赤坂あたりのホテル、ですかあ」

涼子は思わず間の抜けた返事をする。随分と張り込んでいる。やっぱり遅れたお祝いのつもりに違いない。涼子はこれまでの自分の猜疑心をちょっとだけ恥じた。

「そうですね、じゃあ5人で広々した席が取れそうなお店、ちょっと聞いてみますね」

「そうして頂戴」

涼子は一瞬自分がコンシェルジュになったような錯覚を覚えつつ、スマホで七五三の時に予約したホテルのレストランの番号を探した。